福島県教育センター所報ふくしま No.83(S62/1987.10) -001/038page
巻頭言
いま求められているもの
学習指導部長 境野 啓二
本センターにおける各講座は、福島県公立学校教職員現職教育計画に基づき、専門研修に位置づけられており、研修者の教職経験年数によって、1次と2次に分けられている。1次は教職経験10年未満、2次は10年以上の教員を対象として計画されている。そして、研修を希望する教員は、この目安を考慮に入れて講座を選択しているわけである。ところで、この事に関して、最近目立つようになったことは、1次、2次の区別に対して、また講座の対象担当学年に対して、更に講座の内容についてまで受講者よりいろいろと希望が寄せられるようになってきたことである。
また、本センターでは、生徒指導上の問題が顕著になって来た昭和50年代から、各講座に、教育相談についての講義と演習を取り入れている。本年度も「子どもの理解と対応」と題して実施しているが、日常の教育活動の中での子どもの対応のし方とか、悩みや問題を持つ子どもに対する相談的教師のあり方や相談技術が学べるということで極めて好評である。この二つの事例には、現在の教師の強い願いが感じられる。つまり、事例の前者の場合は、すでに計画された研修講座に対して、教師個人としての希望を持つということから研修への関心の高まりとともに、自らより高いものを求めて研修しようとする意識の高まりを感じるのである。教師の研修について臨時教育審議会は、最終答申の中で「教員に対して、専門職としての職責の重大性を自覚し不断の研鑽に努めることを求めたい」とし、教員の資質の向上を図ろうとしているが、変化の激しい現代社会にあっては、未来を見通した研修がますます重要になり要求されるのである。この中にあって、教師自らが研修の必要性を強く感じ、求めて研修することは非常に望ましいことであり、自己の資質の向上とともに教育活動の充実が期待できるわけである。
一方、後者は、一人一人の子どもの理解の必要性についての関心の高まりと一人一人の子どもへの対応のし方に対する研究の必要性を多くの教師が感じているものと受けとられる。画一的な指導が問題とされている中にあって、教師の改善への強い意気込みを感じるのである。一人一人の子どもの理解と対応は、悩みや問題をもつ子どもに対する教育相談だけに生かされるものではない。教育活動全般にわたって、すべての教師が相談的な教師になりきり行わなければならないものと考えるが、今後は、特に学習指導においてその配慮が必要であると考える。「学習は、個に成立する」とは、言い古されてきた言葉であるが、いま、もう一度よくかみしめてみる必要があると思う。一人一人の子どもに学習を成立させるためには、いわゆる、個人差に応じた学習がなされなければならないが、そのためには、一人一人の子どもについての理解が十分でなければならない。昨今、個性の重視が叫ばれているが、一人一人の子どものもつ個性を理解しなければ、その個性は生かされないし、伸長させることもできないと思う。後者の教師の願いが、そこまで見通したものに深まっていくことを強く期待するものである。