福島県教育センター所報ふくしま No.83(S62/1987.10) -034/038page
<研修者の感想>
学校カウンセラー講座(上級)を受講して
福島県立棚倉高等学校 教諭 市川 淳一
1.はじめに教師と生徒の関係を考えるたびに、数年前の学級担任をしていたころのことが思い出される。
それは、入学式の当日から、私に反抗的態度をとる生徒に出会ったことである。そのとき、「どうして私に反抗するのだろうか、明日は、うまくふれあうことが出来るだろうか」と不安を抱きながら出勤する毎日であった。そして、この生徒に対しては、指導を重ねるたびに私との心理的距離が、遠くなって途方に暮れることが多かった。このようなとき、先輩教師から、教育相談的な対応をすることによって、生徒と教師の関係改善の糸口を見いだせるかも知れないというアドバイスを受けたのである。このようなことがきっかけとなって、高等学校教育相談講座を受講して、初めてカウンセリングを学んだのである。それ以来、機会あるごとに教育相談に関係する講座を受講し、研修してきたのである。
2.講座の内容学校カウンセラー講座(上級)は、12日間の研修期間を前期、中期、後期の三回に分けて行われるものである。
この三回を通して行われるものとして、カウンセリング・テーマ研究がある。この内容は、各学校の生徒の中で問題行動を持つ生徒の教育相談を通して、具体的な指導のしかた等を理論的・体験的に習得することを目的としている。この報告書を提出するまでに、研究期間は、約6ケ月間を要し、正直言って何回となく挫折しかけた。その都度、教育相談部の先生方から適切な指導を受けて研究を続けた。そして、報告書をまとめあげるころになって、生徒の問題行動も改善され、変容して行く姿が現実に確認されたときは、この講座を受講して良かったという成就感と満足感で一杯であった。また、カウンセリングの理論や技術、精神医学や心理療法等について、その理論の解説や演習という形で講義が行われた。
その講師とテーマは次のとおりである。「教育相談の現状と課題」(千葉大学教授 安香宏)、「学校カウンセリングの理論と実際」(筑波大学教授 原野広太郎)、「家族カウンセリングの進め方」(立教大学教授 平木典子)、「グループカウンセリング」(日本交通公社能力開発室長 国谷誠朗)、「児童・思春期の精神医学」(県立医科大学助教授 八島祐子)等であった。それぞれ、講師自身の体験を基にした内容であったので、カウンセリングの諸領域にわたって学ぶことができ、学校カウンセラーとして、今後の指針を得るためには、大変有意義な講義であった。さらには、自律訓練法とバイオフィードバック、行動療法の実際、ロール・プレイング、カウンセリング実習等からカウンセリングの技法を体験的に学習することができた。たとえば、ロール・プレイングの演習は、参加者の自発的な言動と表現の行為に基づく体験学習を通して、提示された生活上の課題を、その場で即興的に種々の役割を取って劇化して、その解決を図るものである。その中で自分を語り、他の人と積極的に話すことが出来るようになると、参加者の親しみも増して、演習を終了するのが大変惜しまれる程、好評であった。
3.おわりにこの講座の研修を終えて最大の収穫は、自己分析と自己変容を可能にしたことであろう。それは、生徒に対する考え方や言動に大きな変化が表われた結果と思われる。
さらに、学校の教育相談は、特定な生徒の問題行動の治療だけでなく、すべての生徒を対象に、自己理解や生き方について、自分自身で考えられるような生徒の成長を援助するものでなければならないことを改めて感じた。そのような開発的教育相談を忘れずに、今後も努力して行きたいと思っている。