福島県教育センター所報ふくしま No.87(S63/1988.8) -001/038page

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巻頭言

="写真 佐久間 房 次"

      未 来 社 会 へ の 挑 戦



次長(兼)科学技術教育部長 佐久間 房 次


 18,000本の真空管を使用した最初のコンピュータ,エニアック(ENIAC)の発表から40数年になるが,半導体技術の進展に伴う超密度集積回路の成功で,現在,コンピュータによる新しい文化が作り出され,高度情報化社会を迎えている。コンピュータの発達は,国内はもとより世界各地との情報ネットワークによる新しい通信システムや新しい輸送システムを可能にし,情報の伝達が迅速かつ容易になった。

 例えば,私ごとであるが,過日結婚してシカゴに住むことになった教え子と国際電話で話したが,外国にいるという感じは全くないことなどをみても,地球は非常に狭くなった。

 また,非常な速さで発生する情報媒体(ニューメディア)の社会に対すろ影響力は大きく,情報の物質やエネルギーに対する制御力は益々増大し,これは我々の生活そのものを根底から変えてゆく可能性をもっている。こうした社会の変化に対応する学校教育推進のため,周知のとおり,臨時教育審議会は,最終答申の中に「情報活用能力の育成」について提言しており,学校現場でもこうした進歩に即応した柔軟な対応が強く求められている。

 学校においては,こうした情報化に対し,積極的なコンピュータの導入と活用が必須であり,また,図書館などを中心としたインテリジェント化を推し進め,これを利用して,児童・生徒の課題学習を取り入れ,情報の収集,選択,処理等の主体的学習体験をとおして,情報の価値の判断力や新しい情報の創造力,いわゆる情報リテラシーの育成を図らなければならない。

 そのためには,まず,教師が情報化に関する深い理解をもつことに合わせ,情報活用の手段としてのコンピュータやワープロ等の情報機器を操作する技術を習得することがこれを推進する第一歩である。これからはコンピュータの活用なくしては,教師としての十分な職責が果たせないのではないかと思われ,これを避けては通れないのではないだろうか。

 教師の中には,教育は人間と人間の間で行われるものであり,機械ではできないと考え,コンピュータに対する感情的反発を持っている人もいる。しかし,コンピュータは学習指導における支援,情報検索,校務処理など今までの機器にはない優れた機能をもっている。特に,学習指導においては,子供達の反応に応じて,多彩で有効な情報を提示するなど,今までの教育機器が一方通行の情報伝達しかできなかったことに対し,能力に応じた個別学習の可能性が非常に大きい。

 また,一面において,コンピュータに信仰的信頼を寄せている人々もいるが,コンピュータは万能でない。使い方によっては有害なこともある。ここで大切なことは,機器があるから使うのではなく,学校教育のどの場面で,どんな方法で何に使うのが最も効果的かということであり,教師はコンピュータ利用についての哲学を持つことが大切であると言われている。

 子供部屋の中で隔離された状態で,カセットプレーヤーを聞き,ゲームウォッチやマンガ誌などを見ていることで,たいした孤独感もなく過ごし,実体験が少なく,人間関係の機微を持たない子供も少なくない今,コンピュータの教育が子供たちの孤立化と自閉化を助長することがあってはならない。

 また,コンピュータ等のメディアの利用による学習で,理解の容易さや効率のみを追求することで,人間の「思考力」や「豊かな創造力」をもつ頭脳のマイナスの適応が進み,人類が5万年にわたって築いてきた知的創造性の退化につながるようなことがあってはならないと考える。これらのことは,教育に携わる者にとって,情報化社会に対する応戦であり,未来社会に対する挑戦でもある。


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