福島県教育センター所報ふくしま No.101(H03/1991.11) -003/038page
者に父親について問うと,『どんなことがあっても自分を守ってくれるような父であればよいのですが』とか『父のことはどうでもいいですよ』,『不在パパですね』などと語り,あからさまに父親を非難することはすくないが,不満は多い。 一方,母親には,神経質で,完全癖,主知的,不安の強い性格のもの,あるいは勝ち気で活動的だが,繊細さや優雅さに欠ける性格のものがみられる。養育態度は,過保護,過干渉,支配的という点が一般的であり,時に患者と共生的に結びっいて自分自身の安定化をはかる母親や,冷淡で,厳格,あるいは両価的な例もみられる。このような背景には,良妻賢母でありたいと希望し,また努力もしているが,結婚生活は満たされず,自分の生き方や夫に対する不満が秘められていたり,子供に対してひそかな敵意を持っていることもある。したがって自己不全感や依存的欲求があり,育児によって自己の精神的な安定を保とうとし,過保護,過干渉におちいりやすい。ある調査では,母子の情緒的交流が希薄な反面,母親が理性的育児に積極的である傾向がみられたという。
きょうだい関係では,両親との関係をめぐってきょうだい間の葛藤がみられることが多い。女性患者の例では,しばしば姉や妹が両親から偏愛されていると感じている。また患者の家庭の社会的位置をみると,一般に高い社会階層に属しており,低いとしても中流である。両親の学歴は高く,知的職業についているものが多い。
家庭の食卓風景というものは,その家の家族関係を如実に示すものであるが,拒食症患者の家庭の食習慣にはいくつかの特徴がみられる。すなわち,食事の準備や後片づけは,母親がひとりで行い,患者をふくめた他の家族はあまり手伝わない。家族全員で食事を楽しむ機会が少なく,特に父親が不在がちである。また食卓を囲んでの家族同士の会話が少なく,家族そろっての外食も少ない。患者は幼少時より偏食が多く,食習慣にも偏りがみられるのに,親はそのまま放置している。またこの反対に食事について実に厳格にしつけられていることもある。患者ばかりでなく,家族のなかにも偏った食習慣をもつものがあり,慢性的にダイエットをしたり,朝食を抜いたり,極端な菜食主義にはしったりする。
こうしてみると,拒食症患者の家庭では食事を楽しむ習慣がなく,また食卓をとおしての家族問の交流もないことがうかがわれる。
拒食症の原因の一つである家族側の発症要因を簡単に述べたが,どれをとってみても現在の日本の家庭には程度の差こそあれごく普通に存在しているように思われる。また読者のなかには,登校拒否の家庭との類似点を見出される方もいるかもしれない。事実,拒食症と登校拒否の家族的発症要因がよく似ていることを強調する研究者もいる。拒食症に特有の家族的発症要因が存在しないという観点に立つと,今日の拒食症の増加は杜会的要因や身体的要因の増加によるということになるが,筆者はそうは考えていない。現在の日木の家庭には,拒食症にかぎらず登校拒否やその他の神経症性の精神障害をひきおこす家族病理が以前にもまして増加していることを意味していると思うのである。