福島県教育センター所報ふくしま No.101(H03/1991.11) -002/038page

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特別寄稿(論説)

拒食症患者をみて思うこと

福島県立医大助教授 金子元久

福島県立医大助教授   金 子 元 久

 拒食症は,思春期やせ症,または神経性無食欲症などともよばれ,最近では,登校拒否や非行,校内暴力などとともに新聞,テレビによく登場する。筆者は精神科医であるので,拒食症の患者を診察する機会が多いが,それにしてもここ数年問の本症の増加には驚くばかりである。20年前にさかのぼるが,当時初めて本症患者に出会ったとき,精神医学の教科書に記載されたとおりの極端にやせた姿に驚くと同時に,精神科医になって数年を経て,ようやく診察する機会にめぐまれたことにひとしおの感慨を覚えたものであった。その後もしばらくは拒食症の診察は年に一,二度あるか,ないかという程度であり,今日の増加は予想もできないことであった。
 拒食症の患者を見たことのある人であれば,極端なやせがすぐにも分かる。多くの患者は標準体重の25%以上も体重が減少する。(例えば,身長 155cmの女性の体重が30kg前後に減少する。)また無月経となり,蒼白で乾燥した顔色を示し,うぷ毛が密生することもある。それにもかかわらず,患者自身はやせていないと言い張り,肥満することに強い恐怖心をもち,また今でも太っているために体の一部が醜いと訴える。食物に対する関心は異常なまでに高い。カロリー表を片手に,白分が摂取すると決めたカロリr量を計算して,食事をつくる。家族のために料理をつくり,とくに姉や妹には沢山食べさせようと強要する。家族の心配をよそに患者の日常の活動は活発である。
 増加の原因は何か。これには身体的素因から社会的風潮にいたるいくつかの発症要因があげられている。筆者にとって興味深いのは,本症の家族病理ともいわれる家族的発症要因である。
 われわれが調べたところでは,拒食症の典型例では,父母の離婚や極端な不和,片親の欠損などの深刻な家庭問題は少ない。むしろ見た目には,ごく平凡,また平穏無事な家庭のようにみえる。一般に父親は社会的には問題はない。しかし家庭における父親をみると,家庭内のことについては無関心で,傍観者的態度,放任的態度を示し,子供や母親にとって信頼すべき権威ある存在にはなっていない。また一部には,神経質で口やかましく,気分にむらがあって,子供に対して過干渉な父親や,激しい気性で強権的な父親,道徳的で,融通性に欠ける父親などもいる。いずれにしても患者にとって男性的なよき父親像というものにはほど遠い。父親の養育態度は,子供が成長するにつれて,仕事を理由に育児やしつけには積極的に参加しなくなり,患者との心理的距離がとおのいていく例が多い。患者の幼少時には父子の結びつきが強いこともあるが,この場合は母親と他子との連合に相対していることがある。父親自身が自分の母親への依存から抜けきっていない例も多い。患


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