福島県教育センター所報ふくしま No.101(H03/1991.11) -017/038page
随想
「福島県の食文化」考
技術家庭科教育係長 武 仲 晴 美
会津磐梯山は宝の山よ〜笹に黄金がえ〜
福島県の代表的民謡「会津磐梯山」の一節に,会津盆地の米の豊かさが歌われている。もちろん,福島の食の豊かさは,米だけに代表されるものではない。海と里と山の多様な食の素材,そして浜,中通り,会津地方に代表される異なった気候風十の中で育まれた食の技法とが相まって独特の食文化が築かれてきた。
浜は私の出身地だが,『うにの貝焼き」「さんまのさしみ』『ポーポー焼き』『あんこう料理』など,浜ならではの食べ方,斜理法がいくつもある。『ポーポー焼き』は,さんまのたたきを炭火で焼いた素朴な料理だが,現在はハンバーグ風にフライパンで焼いて,食卓に出す。また,あんこうの肝を使ったとも酢あえは絶品であるが,悲しいかな今はめったに口に入らなくなった。郷土料理として,高い代価を支払って食するのがファッショナブルであり,今様なのだという。かって,かつおの出回る時期は,刺身をはじめとし,煮漬け,あら汁,あまわた(内蔵の塩辛)まで,豪快な食べ方をした。それらは無駄なく,しかも大切に上手に利用された。ここに,浜の気質と伝承された食の信念(質実さ)をみる思いがする。
中通りでは,数年暮らす中で『ずんだもち』『うこぎ飯」『ちまき』『うどん』などの作り方を教わった。阿武隈の山間地で,ばあちゃんから手ほどきを受けたうどん打ちは,私の自慢料理となった。冷害の多いこの地方では,昔は米は貴重な糧でうどんやだんご汁が日常食だったという。現在我が家では,手打うちどんは休日の御馳走メニューであり,本物の味と喜ばれる。
会津は,『こづゆ』『棒鱈煮』『にしん料理』『山菜料理』等,浜育ちの私にとっては,異食文化であり,見るもの聞くもの味わうものすべて新鮮だった。そして,忘れられないのは,寒さ厳しい会津の暮らしを潤す酒のうまさと深情け。
私たちは今「飽食の時代」と呼ばれるほど一見豊かな食環境の中で暮らしている。その一方,食事形態や味覚が画一化され,家族そろって食卓を囲むというごく当たり前の習慣すらくずれてきている。本当の食生活の豊かさとは何なのだろう。土地で採れたものを,土地に合った食べ方で工夫しながら食生活を営む古来からの食伝統に,食の根源をみ,豊かさの原点をみる。四季の移り変わりの中で,自然の恵みを感じとり,食物を作る体験を通して,先人が長い歴史を積みかさねて築いてきた生活の知恵と工夫を学びとることの大切さを,いま思う。