福島県教育センター所報ふくしま No.105(H04/1992.11) -017/038page

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随 想

秋 ・ 思 い 出

 学校経営部長  鈴 木 康 平

  秋を迎えて野山の木々の葉が色付く頃比較的早目に色付くものに通称「やまいも」がある。多年生のつる草で,その根は石に突き当たると曲がりくねっても下の方へ伸びる性質を持ち,これを完全に根元まで掘り上げるのは大仕事である。葉は,先の細いハート形で,黄色に色付いたその葉を見付けると,「やまいも」にまつわる思い出が甦ってくる。

 人はだれでも,それまで出会った人や自然との思い出と共に生きている。うれしくなる気持ちにしろ,勇気付けられる気持ちにしろ,それは,それまで出会った人や自然からの贈り物である。人はその生きてきた環境によって,その思いへの深浅はあっても,だれの心の中にも生きている。普段の無意識の生活の中で,予期せぬ人や自然の事象との出会いによって,心の中の思い出が呼び起こされて,次々と甦ってくることがある。

 教員になって,いわき市の山合いの学校に勤めた折,借家した近くの土手ややぶの中に「やまいも」が生えていた。掘り方を土地の長老に教わり,秋の好天の日には,よく「いも掘り」に挑戦した。

 初めのうちは,「いも」の伸びている方向がわからず折ってぱかりいたが,経験を積むにつれ,そこの地質や周囲の樹木の根の張り方によって,「いも」の伸び方を予測できるようになり,5本に1本ぐらいは根元まで掘り上げられるようになった。柔らかな「いも」を傷付けずに掘り上げるのは,本当に大仕事であった。しかし,地中見えない「いも」に全神経を集中させ,完全に根元まで掘り上げた時の,あの壮快感は格別で,何事にも例えようのない快さを味わった。

 素人は,秋,「いも」の葉が黄色に色付く頃から霜が降りて葉や茎が落ちる頃までしか掘れない。つまり,「いも」の在りかが見てわかる間だけだが,玄人になると,冬の間も掘ると聞いた。葉が落ちてどうして掘れるかと言うと,葉の落ちる前に「つる」の根元に麦を蒔き,その芽を頼りに掘ると聞き,玄人の知恵に脱帽せずにはいられなかった。

 秋,黄色に色付いた「いも」の葉が目に映ると,なぜか,あの土地の人たちの心の温もりと共に,「いも掘り」の思い出が甦ってくる。


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