福島県教育センター所報ふくしま No.107(H05/1993.6) -001/038page
巻 頭 言
15 の 夜 所 長 永 山 三 郎
10代のカリスマとよばれたロック歌手「尾崎豊」の一周忌がTVに流れ,10・20代の青少年が護国寺に6千人近い長蛇となっているのが映し出されていた。昨年を回想すると1万人を越える悲しみのパニックが放映され,これもいつもの社会現象のひとつとして,一年後には忘れられてしまうのだろうと思いながらながめていたのだが・・・・。
4月21日の一周忌,大勢の若者が同じように集まり,依然として音楽アルバム・詩集や小説も売れ続け,追悼アルバム・フィルムコンサートも企画され,「尾崎豊現象」が続いているという。現代の若者が三無主義,無気力,無関心,無感動といわれて久しいのだが,この若者達の心をこれほどまでに揺り動かすのは,何なのであろうか。
ある評論では「尾崎豊は芸能人やミュージシャンではなく,詩人,作家,アーティストであり,リズムや身体で思想や哲学を表現し,人の心を揺することのできる、思想家である。快楽と欲望に巻きこまれる弱さを絶えず暴露しながら,社会の閉塞感や息苦しさを表現し,本気で自由と夢を追い,自分の言葉で吐露しているところが共感されている」と評している。大人達から「落ちこぼれロック歌手」と呼ぱれながらも,常に自分を反省し,少年はともかく傷つきやすく繊細なもので,大人への脱皮とはこんなにも苦しいものなのかという真剣な姿から放射されるメッセージは,少年一人一人がかかえている苦悩の問いかけと交差して,生きる勇気を湧きおこしているのであろう。
4月,新学期が始まり,新聞の論説にも教育への注文が例年以上に多い。それは昨年の小学校に続いて中学校でも新学習指導要領に基づく「個性を重視した」「新しい学力観」に立つ教育が本格化し,学校・教師への杜会や保護者の期待が大きいからである。
一方,近年の全入に近い就学状況の中で,子どもの意欲喪失,学業不振,不登校,非行やいじめ等高校の中途退学の問題を含め,学校・教師はまた重い課題も背負っている。
10数年来いろいろな場面で「教師の望ましい資質」等について述べられ,その中の生徒理解について,カウンセリングマインド,共感的な理解,子供の目の高さでといわれ続けてきたが,私たちは子供たちが尾崎豊現象にみられる,何かに共感し何かに感動したその心をよく理解し,あらゆる角度からの幅広いカウンセリング・マインドをもって,子供たちに接することができたら,信頼され相談される教師として,まっとうできるのではないかと思うのである。
教師は年々老成する。しかし,子どもたちは苦悩の青春に常にあるのだから。