福島県教育センター所報ふくしま No.107(H05/1993.6) -009/038page

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所員個人研究

鑑賞指導の新しい在り方を求めて

(小・中・高等学校)

 学習指導部  菅 野 哲 哉


1.はじめに

 学習指導要領の改訂を受けて,小学校図画工作科,中学校美術科および高等学校芸術科(美術・工芸)においては,鑑賞指導の充実が課題の一つとされ,様々な実践研究等が行われているところである。
 ここでは,鑑賞指導をめぐって注目すべき実践その他の活動について,その示唆するところを改めて確認し,併せて昨年,福島市内の高等学校で美術を履修する生徒152名に対して行った「造形表現の鑑賞」に関する意識調査の結果(資料1参照)を参考にしながら,今後の鑑賞指導実践の具体的方策を探りたい。

2.「新しい学カ観」に基づく鑑賞指導の考え方

 学習指導要領に示された「新しい学力観」に基づいて,図工・美術科では,児童生徒の「自己」を一層重視し,主体的で個性を生かした創造活動を促すなかで,直感力や想像力など現代において求められる美的能力を育成するとともに,生涯にわたって広く造形文化を愛好し,以て豊かな人間形成に資することを目的とした指導が展開されなければならないとされている。
 鑑賞指導は,これまで往々にして表現活動に付随したかたちで扱われ,知識理解面の指導が先行し,子どもの側からの視点を欠いた指導がなされることが多かったように思われる。高校生対象の意識調査の結果を見ると,鑑賞の授業では自分なりの見方や感じ方があまり発揮できないと感じ,主体的な作晶の見方をしていない者が多いことがわかる。「新しい学力観」は,このような鑑賞指導の現状に対して,その在り方の再検討を厳しく求めていると受けとめるべきであろう。
 しかし,一方でこの調査の結果は,「自分なりに作品を味わうこと」や「活動の結果よりもそれ自体の充実感や楽しさを重視する」など,学習活動における質的な豊かさや自由さを求め,「鑑賞活動自体に対する興味・関心は高く」,「友人などの個性に接することに意義を感じている」生徒像をも浮き彫りにしている。このことは鑑賞指導の果たすべき役割の大きさと同時にその可能性をも示しているものと思われる。これからの鑑賞指導は,表現活動との有機的なつながりを深めるとともに,それ自体の教育的意義を踏まえた指導を充実させなければならない。そして,新しい方策を柔軟に工夫していくなかで,児童生徒一人一人の興味・関心など質的な個人差に対応しながら,見る楽しさや考える喜びを感じさせ,自分なりの見方や感じ方を大切にし,


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