福島県教育センター所報ふくしま No.114(H07/1995.3) -001/038page

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(巻頭言)

斎藤洋一氏写真

天質の発育を促す





科学技術教育部長  斎 藤 洋 一


                      

 教師として,子どもが自分から進んで行動し始めたときほどうれしいものはない。自分で問題を見つけて,自分なりの発想からこうしたいと願いながら動いている様は,何か素晴らしい物を見ているかのように思える。このような時に,その子のよさが見えてくる。

 教師が先頭を歩いていると,子どもがどのような行動を取っているのか見えない。しかし,プールサイドで子どもの泳ぎを見ていると,どの子がどのような泳ぎをしているかよく見える。そのような時,子どもをほめながら支援できる。

 つまり,授業でも教師が先頭に立って教えるのではなく,子どもがどう行動するかを,しっかり見て指導し,活動を支援することが教師の専門的な仕事となる。

 明治の教育学者,福沢諭吉は「学校は人に物を教しうる所にあらず,ただその天質の発達を妨げずしてよくこれを発育するための具なり」すなわち,学校は子どもが持っている天質の発達を妨げることなく育てていくことが努めであるといっている。そのためには,子どもによいと思われる授業を自信を持って進め,そしてほめる授業が重要と考える。

 ほめられるということは,子どもの基本的欲求の一つである。先生や親などに認められたい,ほめられたいという社会的承認や愛の欲求は大切なものである。子どもが適切な行動がとれたとき,それを認め,ほめることは,子どもを満足させ,向上しようとする気持ちを高め,その子のよさを引き出す機会になる。

 ほめる内容は子どもによって異なる。子どもに分かるようにほめることも大切である。授業では子どもが行動できる機会と,行動しやすい,動きやすい,そして,安心して自分を出せる雰囲気を作ってやることが必要である。そのために,教師は子どもが行動できるよう十分な準備をしなければならない。

 今,「教」から「育」へという方向に考えを変えていくことが強く望まれている。学絞は子どもが安心して活動し,行動ができる場所でなければならない。自由な子どもの行動から,よさを引き出してほめ,伸ばしてほめ,育っていくのをほめることが天質の発育を促すことになろう。

 その意味で,本来あるべき子どもの姿を新しい視点から考えたのが,今回の新しい学力観であるといえる。偏差値から脱却し個全体を天質と考え育てる教育が望まれる。


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