福島県教育センター所報ふくしま No.114(H07/1995.3) -002/038page
【特別寄稿】
新しい学力観と授業の改善
筑波大学教授 高 野 尚 好
1 個性教育の充実を図る授業
教育界を風靡している「新しい学力親」については,解釈もさまざまで,どのように理解したらよいか迷うところであろう。
この言葉は,指導要録の改訂に関する通知文(平成3年3月20日)に,「新学習指導要領が目指す学力観に立った教育の実践」という文言があり,それが基に生まれたと考えるのが順当であろう。
「新」といわれる現行学習指導要領については,生涯学習の基礎を培う観点から,基本的なねらいとして社会の変化に自ら 主体的に対応できる心豊かな人間の育成を図ることを掲げ心豊かな人間の育成,自己教育力の育成,基髄・基本の重視と個性教育の維進,文化と伝統の尊重と国際理解の推進が重視されている。これは教育課程審議会の改善の基本方針に示された内容で,先述のねらいを実現するには,重視されている4項目に配慮した教育を行うことで,それが新しい学力観に基づく学力の育成の意味になると考えられる。
特に個性教育で言えば,現行学習指導要領では,中学校における選択教科と高等学校における教科・科目の拡大,個に応じた指導方法の工夫改善等が強調されている。また,それに基づく学習指導では,活動や体験の導入による学習活動の多様化が重視されている。これらの具体的な実践なしに個性教育の充実は図れないことになる。
現行学習指導要領によって教育を受けた生徒が高等学校・大学の受験を迎えるに至って,学習指導要領改訂の趣旨とは異なる教育が見えてきた。例えば高等学校については,個性教育の充実を図る観点から,教科によってA,Bの2科目が設定された。この料目設定の趣旨は異なっているので,それぞれの趣旨を生かした教育が行われることになる。ところがいずれか一方が大学入試科目に決まると,その科目を中心にした教育が行われるようになり,改訂の趣旨は葬り去られてしまうことになる。
例えば地理歴史科では,Aの科目を共通の受験料目とすることが明らかになった結果,科目の履修形式に変化が出てくるであろう。このことは大学受験の機会均等の原則を基に判断すれば理解できる。しかし,個性教育推進の方向とは異なる方向で履修形式が決まることになり,設定の趣旨とは異なる教育が行われることになり,善後策を講じる意見も出てくるものと考える。
入試教科(・科目)数の削減によって,入試から除外された教科(・科目)を指導する場合,授業の質を高め,生徒の興味・関心を惹き,真の学力を身につけさせる工夫をしなければならないと言われている。