福島県教育センター所報ふくしま No.117(H08/1996.2) -001/042page

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宮前貢氏写真

「文 化   学 ぶ」

 

 

福島県教育センター 学校経営部長  宮 前   貢


 1994年11月15日。わたしたち文部省派遣海外教育事情視察団一行は,フランス,リヨン市にある「国際学校(世界各国からの入国者の子弟教育に当たっている)」を訪問した。

 1クラス10人はどが「数学・図形」をコンピュータを使ってそれぞれ自由に学習している中学校の授業を参観した後, わたしたちは,授業者のフランス人青年教師とわずかな時間,話し合うことになった。 日本のS教諭が,「このように各国の子供に数学を指導していて最もむずかしいと思うことは何ですか」 と問うと,青年教師は次のように答えた。

 「非常におもしろいことですが,アメリカ合衆国の子供はいかにもアメリカ人らしい見方,考え方で問題を解決するし, ドイツの子は,ドイツ人らしく考えていく。勿論,日本の子は,日本人らしく…… です。実は,子供たちは, 生まれ育った国の文化で学んでいる ,これが指導する側の一番むずかしい問題です」。(通訳のことばに傍点,宮前)

 「文化で学ぶ」。間もなく教職30年を迎えるのだが,今まで一度も見聞きしなかった「ことば」である。しかし,考えれば考えるほど納得がいく。 その通りなのだと思う。要するに,教師の目の前で学ぶ子供一人ひとりは,いかにもその子らしい育てられ方で育ち,その子らしい姿で生活している。 学習についても,その子が経験し,教え育てられ,身につけた見方,考え方で学んでいる。その国で学んできたように学ぶ各国の子供の「学習」を育て, 高めていくことのむずかしさを語った青年教師の「個々の子供」を思うあたたかさに本当の「個性尊重」の心を教えられた。

 ちなみに,この「国際学校」では,転入した子供の母国語教育を重視していて,わずか10人足らずの 日本の子供にも日本語教師を雇用して日本語教育を行う体制が整っていた。その国の子供のものの見方 ,考え方の「よりどころ」となるのは,母国語(その国の文化)であるという考え,「個性重視」の根の 深さを改めて思う。

 子供の「学習」を根源から問い直し続けている東京大学の佐伯 胖先生は,最近,「学習」を「文化 的実践への参加」( )と定義している。新しい学力観に立つ学習指導の問題と併せて,わたしたち教師に 課せられている今一つの大きな課題は.小・中・高等学校における1時間,1時間の授業実践が子供の 「学びの文化」を豊かに育てているかどうかを問い続けていくことだろう。

 あの日は,学生時代から多くのことを教えられた教育思想家ルソーの祖国で,教育の本当の奥深さと自分の未熟さを教えられた,わたしにとって忘れられない「記念日」となった。

(註)シリーズ「学びと文化」第一巻「学びへの誘い」 佐伯 胖ほか編 東京大学出版会P.2


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