福島県教育センター所報ふくしま No.117(H08/1996.2) -038/042page
同じような対象を何度も描くことで,表現意欲が減退してきたようである。
- かなりの時間「木」を描いていたが,いつもより楽しく取り組めた。自分で考えて塗ったり,興味を持ってきた。
- 初めのうちは興味などなかったが,だんだんと楽しくなった。
- どのように表現したらいいんだろうと考えると,興味を持ってできるようになった。
- 「木」を描くのが好きだから意欲的にできた。
- 絵を描くのが苦手だけれど,みんなと楽しくできた。
一貫して「木」を対象としたことは,関連性・発展性から考えれば適切であった。 しかし,イメージをうまく表現できなかっ た生徒が多く,この過程が個々の表現力に深く関わっていることが原因として上げられる。
B.について(体験的学習)
混色の仕方やさまざまな彩色方法を体験し,感覚や表現の幅が広がったことがわかるが,個々の課題と関わらせて,その内容を選択させればより効果的だと思われた。
体験学習について 混色 彩色方法
- 今まで使ったことがないような色をつくれた。
- 色の作り方を学んだ。
- 重色やにじみでこんな方法もあるんだなあと思った。
- スポンジやクレヨンの方が筆より使いやすかった。
- 今まで使ったことのない用具で,いろいろな表現ができた。
- 指を使ったのは初めて。筆よりうまくいった。
C.について(前表現と後表現の比較)
色彩感覚や表現力の高まりをよりはっきりと自覚できたことがわかる。しかし,作品は明らかに表現力が高まっているのに,変わらないと答えている生徒もいて,表現の要求度が上がったことも考えられる。
☆事前・事後調査の比較から
絵画表現への興味関心,彩色に対する意欲,混色の概念など,いずれの観点においても好結果が得られている。
「葉の茂った木」を表すのにどんな色を使うか<> 1色 2色 3色 4色 5色以上 前表現 18% 18% 27% 21% 15% 後表現 0% 5% 21% 24% 47%
V 研究のまとめと今後の課題
1 研究のまとめ
色彩表現力を高めるためには「体験的な学習」や「段階的な指導過程」が有効であったと言うことができる。しかし,一人一人の思いを大切にした表現までにはいかなかったように思う。それは次のようなことが理由として考えられる。
口体験的な学習の内容が個々の表現の課題に結びついていない。
口個々の表現の必要に応じて柔軟に対応できるような指導過程になっていない。
2 今後の課題
今回の取り組みは要素的・積み上げ式的な段階を踏んだものであり,基礎・基本の確立ということからすれば,ある程度の成果があったものと考えることができる。しかし,個性を生かすという観点では問題が残り,生徒の多様な表現を保証するさまざまな面からの研究が必要である。つまり,基礎・基本の定着と個に応じた指導をどう両立していくかが今後の大きな課題になるものと思われる。次のように考えてみたい。
口基礎的・基本的な学習を題材と切り離して扱うのではなく,指導過程の中に取り入れながら,しかも個に応じて進めていくこと。
口基礎的・基本的な内容を「なぜそれを描くのか」「何めために描くのか」というような表現の原点とも言うべき主題とどう結びつけていくか。
□個性を発揮できる,学習形態の工夫や望ましい学習集団の雰囲気の醸成に努めること。
□基礎的・基本的な内容を共通して学習できる題材と,それを応用しながら個々の表現力に応じて自由に表現できる題材を長期の指導計画の中に適切に配列すること。