福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.119(H08/1996.11) -035/042page
また、賛・否の立場を決めるとき、児童の本来の考えを尊重して、同じ考えの者どうしでチームを編成しようとすることが多い。この場合、テーマに対する児童の思い入れが強くなり、課題追求の意欲が増す反面、違う立場から視点を変えて事象を見ようとする面は弱くなる。
次のグラフは、ディベート・マッチ後の児童の事象への見方の変容をとらえたものである。
児童にとって、「自分の考えと違う立場」で議論した場合、調べたり相手の意見を聞いたりして自分の考えが変わる場合が多く、逆に「同じ立場」では、自分の意見がほとんど変わらないことが分かる。言い換えれば、自分の意見に固執しがちである。社会科では、多面的なものの見方・考え方を育成することが重要なので、その意味ではチームを機械的に編成することは有効な方法なのである。
しかしいずれにせよ、チームの編成は、教科や授業のねらい、あるいは児童の実態に合わせて工夫していくことが大切である。
(3) アフターディベートの重要性
ディベート学習は、テーマに対する見方・考え方の「勝敗」がついた時点で終わってはならない。なぜなら、その決着が、事象に対する正しい判定であるとは限らないからである。たとえば、前述の授業の例で考えてみる。「国連は世界平和に役立っていない」という判定が下されるかもしれないが、果たしてそれが正しい判定かというと疑問が残る。そのような場合には、ディベート・マッチが終わった後、テーマに対してもう一度深く考え合う時間を設定することも必要である。 テーマに対するフリートーキング、感想文、あるいは立場を変えてのディベート・マッチなどを行い、事象に対する見方・考え方には幅があることを再確認させるようにしたい。3 おわりに
児童にディベートを行わせた場合、「感情的なしこりが残るか」についてアンケート調査をした。今回の授業の場合、「議論をしても相手と仲は悪くならない」と回答した児童は、4年生86%、5年生94%であった。しかしながら、基本的には児童どうしの人間関係に配慮しながら実施することが望まれる。
ディベート学習は、テーマ設定からアフターディベートまだの活動すげてを含めた学習があるための、時間的にすべての単元で取り扱うことはできない。しかし、可能な範囲で挑戦してみたいものである。児童にとっても、高学年になればなるほど効果的な学習方法である。多様な見方・考え方のできる児童を育成するため、児童の実態に応じた柔軟な工夫をしながら、積極的に活用していきたい。
※ 授業実践にあたって、滝根町立菅谷小学校河野英明先生のご協力を得ました。ここに記して、厚く感謝申上げます。
【参考文献】
・「小学校学習指導要領」文部省 1989年
・ 高野尚好「改定小学校教育課程講座社会」ぎょうせい 1989年
・赤塚公生・阿部正春「ディベート学習の現状と課題」福島県教育せんたー 1994年
・岡本明人「授業ディベート入門」 明治図書 1990年
・岡本信幹・藤森裕治「教室ディベートハンドブック」 東京法令出版 1993年
・松本道弘「やさしいディベート入門」 中経出版 1990年
・藤岡信勝「議論の文化を育てる教室ディベート入門事例集」 学事出版 1994年
・佐久間順子「シリーズ 小学生でもできる教室ディベート」 学事出版 1994年