福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.120(H09/1997.2) -038/042page

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随 想

   お姉ちゃん先生の体験

          教育センター科学技術教育部主任指導主事 石川福子

 「先生、今日は何して遊ぶの?」
 「先生、ぼく、4歳になったんだよ」
 「先生、わたし、セーラームーンの歌を歌うから聞いててね!」
 生徒を連れて保育所実習に行くと「お姉ちゃし先生」たちはいつもこんなふうに迎えられる。

 私の勤務していた高校には東北地方で唯一の保育科が設置されている。2・3年生は「お姉ちゃん先生」として保育所実習を行う。実習で幼児期の子どもの人間形成にかかわる内容と子どもへのかかわり方を学ぶ。

 一言で「保育所実習に行く」といっても、行くまでには、指導言十画を立て、その実習に必要なものを準備し、模擬実習を十分に行ってから出かけるのである。実習が予想通りに進むこともあれば、立てた計画が失敗に終わることもある。子どもは正直である。生徒の対応がまずければ話は聞かないし、その場から逃げ出してしまう。当然、生徒は真剣にならざるを得ない。生徒たちは、時間の経過と数々の行事の中から子どもたちの成長する姿に感動し、時には、子ごもの姿を自分自身に置き換えてみることもしよがら、隔週の実習を6か月問行う。貴重な体験である。

 生徒の多くは保母や幼稚園教諭になりたいという希望を持ち入学してくるが、中には単に子どもが好きだからという理由で入学してくる生徒もいる。限られた時間の中で普通教科と専門学科の学習、そして部活動と生徒たちは忙しい。

 しかし、この実習を振り返った彼女たちの答えに「辛かった一という言葉はない。ほとんどの生徒が「大変だった。けれども、満足感はそれ以上」という結論を導き出す。実習を通して知識や技術が深まるたびに自信がつき、保育者としての望ましい資質は何かについて考え、大げさではあるが自分なりの保育観や保育理論を持つ。生徒は豊かな感性を持つ者の育成にかかわることで、「教えることは学ぶこと」の意味を実感する。ここには、保育所の方々に支えられ子どもたちに育てられ、人間的にも成長した高校生の姿をみることができる。

 今日のように産業、就業構造が大きく変化している時代にあっては、将来の進路についての明白な展望が見定められず、職業選択についのもはっきりしない若者が目立ってきている。

 しかし、自己の進路や将来の生き方について考えることは避けて通れない問題である。中学生や高校牛の時期にこそ、教室を離れて職業を考える機会、自分の生き方を考え、進路の決定に役立つ「お姉ちゃん先生」のような体験学習がもっと必要ではないかと、強く思う近頃である。


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