福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.124(H10/1998.7) -003/042page
る声、あるいは、まじめに働けば地位も安定し、中流の生活を送ることができるという考え方を「一種の幻覚」ととらえる声も含め、以前の価値観が通じない大変革の只(ただ)中に今日の我が国があるという見方もある。
いずれにせよ、子どもも大人も、その拠(よ)って立つ社会そのものが物的・量的にも質的にも変容しつつあり、それに連動するように、子ども自身、大人自信もその影響を受け続けていることは疑いのない事実だということである。そこで、表題である。学校は、このような大変革期にあるという時代認識を持ち、社会から遊離しては存在し得ないということを自覚して「何を教えるべきか、何を教えられるか」という問いに答えなければならない。
このことについて、社説(日経)では、「冒頭の女子高生の短歌に答えるには、チョークに象徴される教師、学校だけでは不十分である。(中略)行政の責任をあげつらうだけでも先に進まない。保護者も含めた大人たち全員の答えを彼女は期待しているはずである。」として具体的な提言をせず論説を閉じている。
また、前述の世論調査(読売)の個々の質問と回答(複数回答)の一部を挙げれば、「本来、『学校』は何をする場と思うか」に対しては、「1(丸囲み)集団生活のルールを学ぶ66%、2(丸囲み)友達を作ったり対人関係を学ぶ63%、3(丸囲み)年齢に応じた基礎学力を身につける61%、4(丸囲み)個性や才能を見つけて伸ばす42%」が上位にあり、「受験や進学に必要な学力を身につける」は9%弱と下位にあった。次に、上記に対応して設けられた問い、「今、『学校』は何をする場になっていると思うか」に対しては、「受験や進学に必要な力を身につける」が66%と断然高く、先の回答1(丸囲み)、2(丸囲み)、3(丸囲み)は、それぞれ20%、18%、25%であり、特に4(丸囲み)については6%弱であったとされている。さて、改めて表題である。このことについては、既に教育課程審議会から「審議のまとめ」が公表されたのだからそれを読めば分かることで、何をいまさら論じる必要があるというのかという声が出されることは、現状を見る限り明らかであるが、しかし、なのである。
今期の中教審の中間報告には興味をそそられる資料が数多く添えられているが、その中の一つに道徳の授業についてのアンケート結果がある。それによれば、小学校低学年では半数以上が「道徳の授業は楽しい」と答えているが、中学3年のそれは5%のみである。「初めから分かっていることしか教えず、感動したりすることが少ない」などが理由という。
時代の潮流変化を十分に踏まえた審議の結果公表された「審議のまとめ」があり、それに基づく新しい学習指導要領の告示も近々なされるであろうが、「そこにそう書いてあるからそうする」という受け身の姿勢では、お題目のみ上滑りして、生きて子どもに働く学校教育は期待できないし、当然、短歌の問いに答えることもでき得まい。一昨年の8月、中教審の委員になっている俵万智さんが来し方を振り返り述べた、「我が身の経験から思う理想的先生像は、教科の専門的な力があり、教える力があること。あとは人柄だろう。」という言葉に出会った。
鋭敏な時代認識と先見性、そして豊かな感性を持つ教師が集い、どう子どもの心に通じる授業を進めるのか考え、子どもの心に響く授業をどう構築するか模索する地道な試みを積み重ねる学校が、「白いチョーク」だけではない「何を」についての答えを出すことができると確信している。
杉原 睦夫先生のプロフィール 昭和14年 福島県に生まれる。福島大学学芸学部卒業後、福島県立高校教諭、昭和58年 福島県教育センター 指導主事、昭和60年 教育庁総務課主任管理主事、昭和62年 喜多方女子高等学校教頭、平成元年 教育庁高等 学校教育課主幹、平成3年 四倉高等学校長、平成5年 高等学校教育課長、平成7年 教育庁教育次長、平成 9年、福島高等学校長、平成9年6月より福島県教育委員会教育長。