福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.124(H10/1998.7) -037/042page
随 想 繭 の 十 二 支
教育センター教育相談部主任指導主事 阿 部 三 夫
郡山市の北東部のはずれ、西田町鬼生田(おにうだ)に繭で作った干支の民芸品がある。
干支一つは、大きくても片手でそっと握られるくらい。1コの繭を体にし、繭を切ったり型抜きしたりした頭や顔、しっぽが付いている。私は、前任小学校を離任する時、3月に卒業した7人の女子全員から、この「繭の十二支」をいただいた。鮮やかな木目の杉の厚い板に、12の干支が一列に並んでいる。
転出が分かって1週間、7人で手分けして一生懸命作ってくれたそうだ。先年の福島国体の関連行事に来られた折、秋篠宮妃殿下の紀子様がお買い上げになった、民芸品作家甲賀さんの作品と同じものである。
「子」 大きな耳に黒い髭の白いネズミ
「牛」 小さな金の鼻輪の白黒まだらなウシ
「寅」 黄色い体、しっぼを立てて吠えるトラ
「卯」 髭まで真っ赤、月に話しかけてでもいるような白いウサギ
「辰」 濃い青緑の体、赤い瞳の黄色い目、角も牙もとても鋭いタツ
「巳」 赤い舌、黒い瞳の黄色い目、リボンをつけてとぐろを巻いた白いヘビ
「馬」 たてがみとしっぼが焦げ茶色、少しそっぼを向いた白いウマ
「羊」 大きな頭にほほがピンクの白いヒツジ
「猿」 真っ赤なほほの白い顔、手揉みしている赤いサル
「酉」 大きな赤いとさかで鳴く白いニワトリ
「戌」 赤い首輪、黒い大きな耳、しっぼをクルリと巻いてにこにこ話す白いイヌ
「亥」 全身焦げ茶色の背中に金色まだら、小さな目と牙、大きな鼻のイノシシ
ーつ一つを手に取って、ほほ笑みかけたくなるような干支である。彼女らは、甲賀さんに教わって作った今年の干支を、児童や教職員、70歳以上のお年寄り全員に、誕生日の祝いとして贈っている。
特に、お年寄りの方には数人で家庭を訪問する。“誕生日おめでとう”の歌とともに、「来年はウサギの干支を持って来ますから、それまでお元気で……。」とこれを手渡ししており、地域からもたいそう喜ばれている。「繭は縁起が良いもの」「繭は宝に恵まれ富を増やす」と昔から言われてきた。
いじめ、不登校、自殺、ナイフでの殺傷事件などと、近ごろの子ども達は暗いイメージばかりで見られがちである。
「お世話になった学校や地域の方々に、自分達の作る繭の干支で恩返しできれば…。」と言う彼女らが、宝であり、人々に心の富を増やしてくれる「繭」のようにも恩える。