福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.125(H10/1998.11) -001/042page
教育センター科学技術教育部長 佐 藤 典 夫
「今年の9月14日、米マイクロソフトの株式時価総額が、米ゼネラル・エレクトリック(GE)を抜いて、米上場企業のトップになった」という記事が新聞に載った。マイクロソフト75年、ハーバード大学生2人が設立したパソコン用基本ソフト「ウインドゥズ」で知られるソフト会社である。近未来産業の中枢である情報ネットワーク分野の企業が製造業トップのGEを初めて抜いたことは、新しい時代の流れを象徴する出来事として話題になっている。
現在、世界は産業革命以来の大転換期にあるといわれている。情報化・通信ネットワーク化の進展は急速なグロ一バル化を促し、世界のあらゆる事象に大きな変革をもたらしている。特に、経済の主役はモノを作る「工場」の時代からソフトや情報という「知識」の時代に移行中であるという。経済的付加価値の高い情報やソフト、科学技術という新しい「知識」を創造していくには、思考力、判断力、表現力、創造力、発想力などの能力や資質とともに、多様性や独創性を認め合う態度を育てる教育が必要である。
現行学習指導要領は92年、小学校から順次実施された。学校では知識の量ではなく、思考力、判断力、表現力などを育てる新しい学力観に基づく教育を進めてきた。しかし、昨年10月に発表された新学カテスト(文部省が94〜95年、公立小・中学校で実施した教育課程実施状況調査)によると、小・中学生の学力平均点は高いが、思考力、表現力、応用力などは低いという結果であった。12年前に実施された学カテストの結果とほとんど変わっていないことからすると、新しい学カ観への転換テンポは遅いようである。また、国際数学・理科教育調査(IEA)によれぱ、論理的思考力や応用力などは国際的な比較を見ても決して高いレベルではない。
明治維新や第2次世界大戦後は国民共通の危機感をバネに乗り越えてきた。ところが、今、時代が大きな地殻変動を起こしているといわれる中、社会の劇的な変化が見え難く実感に乏しいためか、切迫した危機感が薄いようである。
21世紀を拓く学カは、知識詰め込み型の授業からは生まれない。教師一人一人が危機感を共有し、意識改革を図り、知識創造型の授業への転換が必要である。授業転換が不可欠なことを十分に理解して新しい授業方法の実践研究や教材開発に取り組み、力量を高める必要がある。
昨年、中央教育審議会は「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成する教育」を答申した。理念は現行学習指導要領の延長上にあるもので、「ゆとり」の中で「考えさせる授業」の実践を強く求めている。新しい学習指導要領はまもなく公示される予定である。
学習指導要領は器にすぎない。器が新しくなっても、料理人が変わらなけれぱ、料理は変わらない。