福島県教育センター所報ふくしま「窓」 No.126(H11/1999.2) -044/046page

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随 想

ふと振り返り思うこと

教育センター情報教育部主任指導主事  菅 野 貴 夫 

 時おり、あの当時を振り返り感慨にふけることがある。
 13歳の冬、肝臓を悪くして2ケ月ほど入院した。長期入院は中学生の当時の私にとって、とても心細くショックな出来事であった。
 そんな時、出会ったのがA君とH君である。二人とも難病に犯され幼いころから入退院を繰り返していたようで、病院は彼らにとって我が家同然であった。彼らは病院の先輩として私にいろいろなことを教えてくれた。夜、人気のない外来病棟を探検したり、寝台に乗って遊んだり、彼らは決して病気に負けていなかった。
 この入院の中で、私はそれまでに経験したことのない現実に出会った。白血病や脳腫瘍などで病む幼い子どもたちとその母親の献身的な看病の姿、そして幼い命があっけなく消え失せ、狂ったように泣き崩れた母親…………
 自分の身近なところで「死」という厳しい現実に直面し、命の尊さを初めて知ったのもこの時である。また、病魔に敢然と立ち向かい生きようとしている姿に感動を覚えたのもこの時である。
 時おり、ふとあのころを振り返り思うことは、「健康な我々は、自分の命は有限だとしりながらもそれを忘れ、考えようともしないのではないだろうか…………」
 あれから30年後、以前から病んでいた胆石による発作で入院した。3週間ほどの入院であったが緊急であったため、職場の皆さんに大変迷惑をかけてしまった。
 この入院中のペットで、いろいろなことを考えそして学ぷ機会を得た。それは、自分の存在が周りの人にどれだけ影響(迷惑など)を与え、また、周りの人から影響(援助など)を受けてきたかということ、自分という存在が周りの人の存在なしには有り得ないということである。
 今こうして迷惑をかけながらベットの上にいる私に対して、周りの人から、励ましや温かい心遣いをいただいている自分が、世界一の幸せ者に思えたのもこの時である。
 人と人とのかかわりは、言葉や行動という形で表れるが、特に言葉は、何気ない一言が涙が出るほど嬉しかったり、感動を与え、勇気づけるものであったりすることを実感したのもこの時である。

 二度の入院は、私のこれまでの人生の中で、自分を形成する上で、大きな影響と刺激をもたらしてくれた。A君H君はその後どうしているだろうか……今も勇気をふりしぼって病魔と闘っているのだろうか………
 今、あの当時をふと振り返り我に戒める。
 「有限である私の人生の中で、人と人とのかかわりを大切にして、一日一日を大事に生きていきたい。」


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