月舘町伝承民話集 -028/200page

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 それは須賀川の宿に着いた時、Sさんの様子をうかがう様な見知らない男が居ることに気付いたのだった。「彼は何者だろう。」「何の為にわしをつけているのか。」「ふところにある財布の中をねらってか。」「道中によく あるおいはぎ類か。」いろいろ考えて見たが悪人の様でもない。どこか気品のある人のようにも見える。Sさんは翌朝太田原の宿屋を発って、次の宿の越ケ谷まで歩きつづけた。怪しい彼の男もSさんの先になったり後になったりしてついて来る。

 Sさんは心を取り直して不審な男については出来るだけ気にかけない様にして歩いた。けれどもその男はSさんから目をそらさないようにして何処までもついて来るようだった

 Sさんが休めばその男も休む。Sさんが茶屋に入るとその男も茶屋に入る。どうもおかしい。何かがあるらしい。しかしSさんには思い当ることは何もない。

 そんなことがあっても遂に江戸に近い千住の宿に着いた。明日は愈々江戸だ。一刻も早く藩邸に伺い、清水寺建立のいきさつを申上げてお上のお許を得ようと考えていた。

 千住の宿はSさんが江戸に出る時いつも泊まる宿屋なので、主人も女中達も皆顔なじみだった。Sさんは比較的よい座敷に案内された。

 「お久しぶりだね。奥州月舘の方は、もうすぐ雪でしょうね。」などと愛想よく迎えてくれた女将が俄かに顔色をかえて、

 「Sさん!! 実はあなたに逢いたいといって待っていられる方があるんですが。どうなさいますか。長い旅路ですから、お風呂でも召されてからゆっくりお逢いになられますか。」という。Sさんは女将に向って、


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