月舘町伝承民話集 -029/200page

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 「どんな用件かわからないが今すぐ逢いましょう。こちらへ通して下さい。」と頼んだ。女将に案内されて Sさんの部屋に入って来たのは、須賀川あたりからSさんの後をつけて来た40オがらみの男だった。

 Sさんは男を見て、「ああ、やっぱりあの男だったのか。何の用だろう。」と心の中で不安を覚えながら、

 「いらっしゃいませ。奥州月舘のSですが。」

 「やっぱりS様でしたか。実はわたしは奥州の月舘までまいるつもりでしたが、途中でSさんが江戸へ上られることを聞いて是非おめにかかってお話をうかがうために後をついてまいりました。Sさんにお逢いしてほんとうに嬉しいです。」

 「では何かご用でもあるのですか。」

 「ハイ、実は昨年の秋の頃ですが私共の娘が突然家出をしまして、行方不明になりました……あちこち知り合いの所をたずねたのですが一向わかりませず。死んだものやらどうなのか神や仏におすがりしてさがしあるいていました処、奥州月舘のSさんの家におるとかの噂をききまして、家族一同心から喜んだのでございます。」

 「Sさま!!あなたの所に私の娘がおるのでしょうか……」

 「ああそうでしたか。お話をお聞きして誠にご心配のことでございますね。さておたずねの件ですが、実は去年の秋の頃、福島の市場で道に迷っていた娘を可愛想だと思って私の所に引取っておきましたが。住所も名前も話さないので身元については何も承知しておりませんが、あなた様の娘さんなら帰国後すぐお返し到します。」


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