月舘町伝承民話集 -109/200page
とくってかかったんだどぉ。するとその坊さんは 「きさまはまだ女の人にとらわれていたのか。わしはもう とっくに忘れていたぞぉ。」といったと。禅坊主の涼しい目が空に吸われていたんだどぉ。
商家のあるじのはなし
むかし、たいへん名高い坊さんがいたんだどぉ。この坊さんがある日だん家をひとめぐりしようと朝の勤 行を終えたあと出かけ、町の商家のところを通りすぎたんだどぉ。そうすると、その主人が帳場にすわって、 傍らに大福帳を置き、バチパチそろばんをおいていたんだどぉ。坊さんはそこで声をかけた。
「なにしとるか」 と。
そうするとそろばんから手をやすめて、その家の主人はこういったんだどぉ。「大はんにゃ経を読んでおりまする。おかげでお経の功徳で家族が飢えずにくらしておりまする。もったいのうございます。」
坊さんは 答えたどう。
「よいぞぉ。その信心は。福田のめぐみはつきぬまい。」
坊さんは主人の器量を思いめぐらし、「ここ にも仏の弟子が一人いるわい。」とそう思ってまたすたすたと歩き出したんだどぉ。