月舘町伝承民話集 -127/200page
狐は内心喜んだ。ずうっと前からこのつぶを食ってやろうとねらっていたが取れなかった。今日こそあの 大きな、うまそうなつぶが食べられるとうれしくってしょうがなかった。狐は自慢した「おれのしっぽはない、年中引きずって飛んで歩いても、毛一本すり切れることはねえんだから、水につかったってちっとも何 ともねえんだない」といった。つぶはまたいった「そんじも、この池の水の中にしっぽを入れて、まるきしぬらしたら、なんぼ狐どんでも重かんべいなん」。これを聞いて狐は、「なあにそだことは平ちゃらだい、これ この通り」と狐はしっぽを池の中に尻がぬれるほど浸した。つぶは待ってましたと、狐のしっぽの一番先の 毛にぴったりと吸いついて、かたくかたくふたをした。狐はそんなことは知らない1、2、3でかけ出した。野も山も川も登りも下り坂も目に入らない。今日こそ、あの大きなつぶのうまい肉が食えると、目の前にぶら下がったようなつぶの肉の味を思い出しながら走りに走った。一晩に軽く十里は歩くといわれる狐の足は早い。決勝ラインの山のてっちょねに着いた。
狐「つぶの野郎はまだまだ半分も来てなかんべえ」と勢いよく後ろを振り返った。その時つぶは、しっぼの はずみを利用して後の方に飛んだので、狐より一米位先になった。狐は、つぶがおくれてきたらすぐに食う ことばかり考えていた。その時、後ろからつぶが「狐どんおそかったなあ、おれはおめえを食ってもいいべ」 と話しかけたから狐はびっくり仰天。いつも智恵者ぶり、ごう慢ちきな顔を土につけて、ひらあやまりにあ やまったとさ。ほんじゃからなあい、ずるい考えだけでは、うまい物は食えねえんだなあ。