月舘町伝承民話集 -129/200page
その男のおっかあも、愛嫡のよい女だった。家内中の人達に歓待され、さて寝ることになり、その主人は
「せっかく伊達から案内して来たんだから、あの一番よい絹の布団を出して、寒くねえようにしろよ。金は明 日の朝あげるから安心してねっせえ」
と、立派な絹布の布団に寝せられたが、何だか身体がすべり落ちるよ うで、絹布の布団とはこんなにすべるものかと、その都度はい上っては寝たが、ぐつすりは眠れなかった。そうした一夜もようやく明けた。気がついてみたら、山の斜面の大木の根っこの上に木の葉を敷いて寝て いたのだった。昨日の主人も家族も家もない。おれは狐にばかされたんだとようやく気がついたが、困った のは自分が今いるのはどこなのか。どこを見ても見たことのない山ばかりで、どっちへ行ったら帰る道に出 るのか、人家のある方角はどちらなのか皆目わからない。とにかく、窪の水の流れに沿って行けば里に出ら れるだろうと、夢中で沢を下って行ったら、小さな畑に大根が作ってあったので、その大根をかじりながら 下って行くと、人家があったので聞いてみたら、そこは飯坂村(現在川俣町)萩平だったという。連れて行 かれたところは相馬境の山だったのだろうか。
留守宅では、大騒ぎの最中。ぼう然とした格好で帰ったのは夕刻だったという。その一昼夜に七やんは、5オも6オもふけて見えたということであった。