月舘町伝承民話集 -130/200page
愛宕サマの焼観音
それはいつ頃のことなのか、今から二、三百年も前のことだろうと人々はいっていた。
或る年、五幸山一帯が大きな山火事になったという。その山火事も二度程あったと昔からいい伝えられて きている。この山火事のとき、御山のお使いである大蛇が太い尻尾をふって鐘をつき、里の人達に大火を知 らせたという。雪の降る夜炉ばたを囲み、よく古老からこの話しを聞かされてきた。
火の手が上って間もなく、山一面はたちまち火の海となってしまった。そのときであった。長く尾を引い て一つの大きな火の玉が五幸山から東の方をむいて飛んできた。山火事を見ていた里の人達は
「御山の火事 で大きな火の玉が飛んだぞう」
と大さわぎになった。そして
「これは何か悪い知らせではねいのか」
などと □から口に伝わって、里人達を恐怖のどん底に落し入れてしまった。その玉が、どうも愛宕さまあたりで消えたららしいということで、その日の翌日元気な里の若者達が、オ ッカナビックリ恐る恐る愛宕山さして登っていったのである。頂上はいつもと同じように静まり返り、松風 のみがヒューヒューとなっているのみであった。ところがお宮の片隅にある小さな、なかば傾きかけた行屋 のお灯明台を見て一同はアッと驚きの声を上げたのである。なんとそこには、木像の下半分が焼けこげた観音様が一体あるではありませんか。そしてその傍の大石の横にある松の大木の根元には、飛んできたときに 突き当ったと思われる子供の頭ほどの窪みができておりました。里の人々は
「そうだ、ゆんべの御山の火事 に飛んで来た火の玉は、確かにこの観音様だペ、火事であんまり熱いもんで逃げ飛んで来たんだべ。これは