あだち野のむかし物語 - 010/037page

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主人の実方の安否を心配していました。幾年過ぎても帰って来ないばかりでなく、何の便りすらもないのです。実方の奥方である香野姫は、次第に生気もなくなり身は細るばかりでした。

 或る日、ついに香野姫は、夫実方の身を案じて日毎に募(つの)る思いを抑えきれずに、その後を追って旅に出ようと心に決めたのでした。成せばなる、女の身とて決して出来ない事はないと、旅姿に身をつくり、馴れぬ旅路を艱難辛苦(かんなんしんく)して幾山河(いくさんが)を越え、越え去り来て幾十日の旅を続け、やっとの思いで遠く陸奥の国までたどり着きました。

 しかし、夫実方についてのはかない消息を頼りの旅のことです。運が良ければ民家に宿を借りることもできたでしょうが、たいていは野に伏して夜を過ごす苦難の旅が続きました。高い山や深い谷川を越え、道に迷っては高い山に登って道を探す繰り返しのこととて、香野姫は身も心もすっかり疲れ果てておりました。いずことも知れぬ夫の行方、明日も続く旅の事などを思うにつけ、不安と焦(あせ)りは募るばかりでした。とうとう、山の奥の方に踏み迷ってしまった香野姫は、目を病み疲労と病気で倒れてしまいました。

 その時です。どこからともなく白い猪(いのしし)が現れて、香野姫をゆり起こしたのです。はっと思った香野姫は、それが夢でないことを知りました。その猪は、香野姫に「さあ、私の背中にお乗りなさい。」とでも言うように合図をしますので、姫はやれ嬉しやと白い猪の背中に身をゆだねますと、猪は勇んで林を抜け、山を越え、谷川を渡り、坂道を降りて、山奥に二、三軒の人家のある里に出てきました。白い猪は、この里に姫を
香野姫(かやひめ)明神


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