あだち野のむかし物語 - 013/037page
た。
次の朝、精顕は宿の主人に昨夜の不思議な出来事を話しますと、
「おそらく、その娘は杉沢の里の杉の木の精(せい)でしょう。あなたさまに思いを寄せ、娘の姿になってあらわれたのですよ。」と主人は答えました。精顕は半信半疑(はんしんはんぎ)でしたが、もう一度きのうの泉まで行ってみました。
「おお、これは……。」
精顕は思わず足を止めました。辺り一面に緑の光が輝き、その中に小さな家が建っています。そして戸がすっと開き、娘が出て来ました。「お待ち申し上げておりました、さあどうぞ。」
娘は恥ずかしそうに言い、精顕を家の中に招き入れました。「そなたの名は。」
「はい、お杉と申します。」娘は山里に住むものとは思えぬ淑(しと)やかな物腰で遇(もてな)しました。精顕はすっかりこの娘に心をうばわれてしまいました。長い黒髪、健(すこ)やかそうな頬(ほお)の色、若杉を思わせる体付き、そして身じろぐたびにかすかに匂(にお)う