あだち野のむかし物語 - 029/037page

安達ヶ原の鬼婆
	二本松市

　ずっと昔、阿武隈川のほとりに広がる安達ヶ原は、一面芒（すすき）に覆われた寂しい所でした。そこに松や杉の茂る丘があり、麓の岩屋に「いわて」という名のお婆（ばば）が住んでおりました。

　いわては、かつて京の都の身分の高いお姫様の乳母（うば）でしたが、そのお姫様は生まれつき話をすることができない、言葉に障害のある人だったのです。いろいろ手を尽くしても治りません。しかしそんな時、

「母親のお腹（なか）にいる赤子の生（い）き肝（ぎも）を食べると治るのだ。」
と、ある占師（うらないし）が予言したのです。いわてはそれを聞き、お姫様のためならばと、生き肝を求めてはるか陸奥（みちのく）へとやって来たのでした。

　しかし赤子の生き肝など、おいそれと手に入るわけはなく、いたずらに過ぎ去る年月−。

　そんなある年の秋の夕暮れ、旅姿の若い夫婦が、岩屋の前に姿を見せました。

「私は生駒助（いこまのすけ）と申す旅の者ですが、妻が腹痛で難儀しております。どうか一夜泊めていただけないものでしょうか。」

　見ると若妻の腹はぷっくとふくらみ、今にも赤子が生まれそうな気配。とたん、ぎらりと光るお婆の目、待ち続けた時が来たのです。だが、高ぶる気持ちを抑えつつ、

「ささ、むさ苦しい所じゃが、どうぞどうぞ。」
と二人を岩屋に通しました。しかし落ち着く問もなく苦しみ出した若妻。

「ほれ、お前様は薬を求めに里へ行きなされ。」

　こう言って生駒助を使いに出したお婆は、手に持つ出刃でいきなり若