朝河貫一その生涯と業績に学ぶ -019/025page

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麻痺してしまうであろう。」(特別寄稿「日本の対外方針」,雑誌『国民之友』明治31年6月号)と述べています。彼は,国際的な正義の立場を貫こうとしていたのでした。

 その後,世界は激動の日々をおくります。日露戦争から第二次世界大戦に至るまでの間,朝河は研究のかたわら,世界の進むぺき道と,祖国日本のとろうとしている進路について冷静な眼でみつめ,熱いメッセージをおくり続けたのです。

 特に日本については,自国の利益を追い求めようとする姿勢と,閉鎖的な考え方に対し,厳しい注文をつけています。彼は,日本の国民性についても語っています。朝河は,歴史的な流れをもとに,愚かな指図や悪い指揮にも簡単に従ってしまう傾向がある,と指摘したのでした。国際化社会を生きようとしている私達に対し,重要な問題提起をしているのではないでしょうか。

 生前,日本では無名に近かった朝河は,表面的に日本の利益を考えた人々よりも,深く日本を愛し,その進むぺき道を的確に示した人物と言えましょう。

 また,歴史学を研究し続けた彼は,国家に対するひとつの考えを示しました。国家はその国民が人間性をもっているかぎりにおいてのみ,自由な独立国である。しかし,その政治体制が民主主義の組織をそなえているというそれだけでは,自由な独立国とはいえない。自由主義にあっては,その国民が世界における人間の立場を,すぺてにわたって意識するまでに進歩しているかどうか,それこそが重要である。

 21世紀に生きようとする私違は,国際化社会の中で広い視野を持ち,世界中の人々とともに生活していくことの重要性を,彼の言葉の中から学びとっていきたいものです。

 朝河が生前によんだ歌「精進(しょうじん)」の一節を紹介しましょう。「ほかの人たちは,志をたてて郷関(きょうかん)を出て努めるが,結局道ぱたの小石を拾って帰り宝とする。自分は決してそういうことをせず,無限に精進していきたい。」

 彼は死ぬまで,研究と精進をやめなかったのです。そんな彼の姿勢から,学ぶことの意味を感じとることができるのではないでしょうか。

 彼の歩んできた「道程」と「精神」をどのように受けとめるぺきなのか,私達に大きな課題を与えてくれていると思います。

 国際化時代を迎えた今,世界各国がわが国に寄せる期待は年々増大してきており果すぺき役割も多様化してきています。これら各国における期待感は,わが国の政治的,経済的安定と繁栄にあるが,今日のわが国の存在感を高めた基礎は,日本人の勤勉性と共に,世界で活躍された多くの日本人を忘れてはならないと思います。


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