長沼町の伝説 -014/224page
なくなるのをまっていた。与右ヱ門が少し席をはずしたすきに、侍はねずみを食べてしまった。侍は苦 しみながら鹿島神社の方へいそいで帰っていってしまった。
部落の人たちが狐の死体を鹿島の森でみつけたのは数日後であった。狐のそばには子狐が歎き悲しん でいたという。
与右ヱ門は、それからというものは狂人のようになり、行方のわからぬ人となってしまった。与右ヱ 門の家は継ぐ人もなく、廃屋となり、屋敷のあったこのあたりをいつの日からか与右ヱ門の化物屋敷と 呼ぶようになった。
(話者 広田広美・広田寅次)
末子五郎内の化物 《上木之崎》
昔、上木之崎村と下木之崎村の境に末子五郎内という森があった。この地に悪い狐が夜な夜な出没し、 通行人は恐れおののいていた。
ある日、南横田村の某なる人が泉田村に用達に行く途中、このところにさしかかり、「人間に仇なす 不敵な妖怪め、今夜こそ退治してくれる。まっておれ」といいのこして通りすぎたのである。
某氏は、泉田村で用事をすませ、この地にさしかかった時は、とっぷりと日がくれて、あたりはうす 暗くなって静まりかえっていた。