長沼町の伝説 -083/224page
それより幾年、求願は救民に一生を捧げ、決して名誉にあこがれず、あくまで無の一字に哲するよう 心がけ、滝村青龍寺に来て住んでいた。
時に祐天が芝増上寺の大法丈になっていると聞いて、彼は誓いを破ったな、彼と面会して見ようとわ ざわざ江戸に上った。増上寺に行って住僧に面会を申込むと、「ここをどこだと思うか。かたじけなく も徳川家の菩提所だぞ、御前のような乞食坊主が大法丈に面会したいなどと身のほど知らぬたわけ者! さっさと立去れ」と取り合ってくれない。
しかし、そんな事に負ける求願ではなかった。追い払えば、追い払うほどテコでも動かず、ぜひにと 面会を求めて止まなかった。さすがの役僧も、これにはホトホト閉口して、ついに祐天に取り次いた。
求願が来たという言葉に、さすがの祐天も顔色がサッと変った。
「どんな様子をして来たか」と役僧に訪ねた。
「乞食坊主の風態です」と役僧が答えた。
「それならば俺の紫の衣があるからそれを着せて通せ」
と役僧に命じた。役僧は祐天の言葉を求願に伝えたところ、求願はカ ラカラと笑って、「拙僧は貴殿の申す通りの真の乞食坊 主に相意ござらぬ。何もそのようなりっぱな衣を着た いために、ここに来たのではないそのような事は無用 にしてもらいたい」といって着なかった。