長沼町の伝説 -166/224page

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置いた。

 本妻はますます妬んで、ある時、花畑で花見の上覧があった折、美男の彼は殿の御附役なので、殿の お供をして花畑に行った。

 桜姫はひそかに、手紙の如きものをこの男に渡して、これを阿梅に渡せと申付けたので、何心なく取 り次いて、花の木蔭で阿梅に渡した。桜姫の計略とは知らず、受け取って開いて見たところを、殿の目 にとまった。殿は阿梅を呼び寄せ、事の次第も問わず、文を取り上げて見たところ、密通数度に及び、 阿梅の腹の子も彼の男の種ならば、男子が生まれれば長沼中 納言の家をともに握り、主君夫婦を毒殺しようという書状な ので、時貞は大変怒り、阿梅を調べもせずに、花畑の桜の枝 にくゝりあげ、つるし切にして殺してしまった。

 その泣呼ぶ声は晴渡る春の日も曇り、咲きほこる花もしぼ み、散るかと思われた。供の者一同、片唾をのんで、肌に汗 して折角の興もさめてしまった。

 男も直ちに斬處させてしまった。殿と桜姫は、やがて城に 帰ったが、それからは阿梅の怨靈が花畑の桜の木の間より出 て、城の方をにらみ、殺された時、叫んだ声とともに陰火が 燃え、城の方に昇って行くのである。

阿梅塚
阿梅塚


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