長沼町の伝説 -186/224page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

 藤沼に水の溜まるのは、どんな大雨でも長雨の時でもなく、自現太郎様がお出になるときだといわれ ている。

 水が溜まると、その中に御幣を立てて、善男善女が長い参詣の列をつくる。そしてそのお水を戴いて 行って痛いところなどに塗ったりして、病気の治療にもちいるならわしがある。

 ある年、自現太郎様がおいでになり、沼は満々と水をたたえており、その周辺の楢の大木には、数百 年も経た藤の大木が満開に咲き乱れていて、沼の水に写ってみごとな景観を添えていた。そこに数人の 婦人の人達が、お水を戴きにまいり、思い思いの容器にお水を戴いている。ちょうどそこを通り合せた 瀧方面の男の人がこれを眺めていたところ、何を思ったのか、どれどれどんな岸辺の水より真中の良い 水をおれが汲んで来てやると、尻を端折って沼の中にじゃぶじゃぶと入って行った。

 ちょうど真中頃まで行ったとたんに、その男の人は何を見たのか、顔面蒼白で、身ぶるいするととも に腰も抜けんばかり。岸にはい上がって来ると、久保道へ通ずる坂道を一目散に逃げ出してしまった。

 沼地にいた女の人たちは何が起こったのか、何もわからず、ただ呆然としているばかりだった。

 一目散に逃げて来た男は、久保のすぐ裏山に祀られている熊野神社の所まで走りつづけて来て、精根 もつきてしまい、わなわなふるえてこごまってしまった。

 するとそこに熊野様が現れて、その男を山の下までなげおろしてくれ、ようやく一命をとりとめたと いわれている。

        (話者 加藤忠太郎)


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は長沼町教育委員会に帰属します。
長沼町教育委員会の許諾を受けて福島県教育委員会が加工・掲載しています。