長沼町の伝説 -187/224page
五斗畑と八石田 《江花》
上江花地内に通称「五斗畑と八石田」と呼ばれているところがある。
その昔、上江花の住人、遠藤太郎兵衛という者が、小用で滝新田村に出かけての帰り道、藤沼神社の 前をとおりかかったところ、シャグシャグシャグという馬の鈴の音が聞こえてきた。その日は雨がしん しん降る夜であった。
不思議なこともあるものだと、太郎兵衛がひょいと後を振り返ってみると、烏帽子、直垂姿で馬に乗 った貴人が多くの家来をつれて現われた。
とっさのことで、びっくりした太郎兵衛は「あなたさまは何様でありますか」とたっぴらになってたず ねた。すると、「私は自現太郎だが、してお前の名は何と申すか」とたずねられた。太郎兵衛は、「はい、 私は上江花の百姓太郎兵衛と申します。けっしてあやしい者ではありません」と答えた。こんな話のやり とりをしていると、藤沼神社の境内の方がぴかっと明るくなったと思う間もなく、白装束の美しい姫様 が現われ出でて、「お前に頼みがある。今夜私どもにあったことをだれにも話さないでほしい。もし約束 してくれるなら、お前の望む宝物を授けよう」と言われた。
太郎兵衛は返答にこまっていたが、姫は「お前は子どもが大勢なのだから、米が存分とれる田と穀物が 充分とれる畑を与えよう。どのくらいとれればよいか申してみよ」と言う。太郎兵衛は、「はい、米は八 石ぐらい大豆、小豆の穀物は五斗ぐらいあれば存分でございます」と答えた。