長沼町の伝説 -189/224page
惣右衛門の井戸 《小中》
上小中に惣右衛門の井戸というのがある。昔、この家の主人、惣右ヱ門という人は長沼街道を馬子を して、暮しの助けにしていた。
ある日、牧之内(天栄村)の辺りで、白装束の白髪の神々しい老人を乗せた。その人は長沼の近くで馬 からおりて、お礼にといって巻物を与え、「困った時開いて見よ」と言って立去った。
通行人の話しでは、馬の背に乗っていたのは、御弊 だったという。この白装束の老人は、藤沼様の仮の姿 だった。巻物は家の宝として代々伝えられた。
それ以来、惣右ヱ門の家の井戸は、藤沼様が来ると 一杯に水が溜って報せがあるという。その後、子孫の 代に惣右ヱ門家は、不慮の火災に逢って焼けた。家宝 の巻物も一緒に焼け、一度も開いたことがないので、 中を見た人はいなかった。
いまはここには家もなく、井戸だけが残っている。
(話者 八木沼勝美)