長沼町の伝説 -196/224page
なり亡くなったので、二代目の藤を切る人は今後おそ らくないだろうといわれる。
しかし、晩春の藤花は大杉より一面に垂れ下り、み ごとである。
(話者 石井 栄)
杉の堂の枕返し 《矢田野》
昭和三年、私が長寧寺住持として、入寺したある日のことであった。
寺総代だった鈴木源蔵氏の話によると、矢田野に杉の堂という大日如来を祀ったお堂があった。近隣 では、殊のほか信者が多く、年に幾度かのおこもりの日があって、当日になると、夕闇せまる頃から善 男善女が三々五々とお詣りに集まる。一晩中、世間話しに花を添え、また踊りつかれて寝る時は、せま いお堂のこともあって、仏前の方へ足を伸ばして、仮寝するものもあった。
翌朝、目が覚めてみると、頭が仏前の方に替えされている。こんなことがおこもりのたびにあるので、 いよいよ不思議さがつのるばかり。あるとき、だれ言うとなく、大日如来が枕返しをされるのだという 噂さがひろがり、ますます信仰心を起こしたと古くから伝えられている。
今でもお堂のあった所を、お堂の名にちなんで、杉の堂という呼名で残っている。
(話者 本田栄三)