長沼町の伝説 -211/224page
虫送り 《下江花》
下江花は十五歳になると、各家庭の長男が若衆会(今の青年会)に加入する。部落の結婚式の儀式も、 嫁さんが仲人に連れられて嫁いで来ると、あとの結婚式一切はこの若衆会の若衆たちが行う。
この儀式のあらましを述べてみると、花嫁花婿を対座させ、肴には煮干、カズノコ、キンピラゴボウ さらに嫁様の前には、大根で作った男根の飾物、婿様の前には、やはり大根で女の陰部を上手に作って 飾る。それに松竹梅と鶴亀といった飾りを添え、高砂の謡をうたって式をすませるならわしであった。
また、部落の葬式も、この若衆が穴堀から六尺まで全部行うならわしで、現在もそうである。部落の 冠婚葬祭は、すべて若者たちがこれを執行するという風習である。
耕作面でも、また若衆が主軸になることは申すまでもないことで、田植も終り、稲もすくすくと成育 し、そろそろ害虫も付き始める七月頃、虫送りという催しが行なわれる。
部落の中央の大日如来堂に、若者たちが集まり、大日如来に祈願をする。それから獅子頭を五、六人 してかぶり、部落中一戸ごとに廻り、病魔や悪魔を集めて廻り、さらに田圃も巡り、農作物の病虫も集 めて、夕方、大日堂から、村はずれの弁天堂へ若者たちは大太鼓を打ちたたきながら、病、虫、病魔を 送って行く。これを虫送りといっている。
農物作の病虫害とともに、人間に及ぼす病気も悪魔もいっしょに送って行って、村内の安全を祈る事 で、いつごろから行なわれたかは不明だが、いまなおこの行事は行なわれている。
(話者 加藤忠太郎)