ふるさと昔話 - 005/056page

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白雲はスルスルと大竹ざおを登り頂上にスクッと片足で立ちました。
両手に白扇をパーッと開き胡蝶が花に舞う如く踊り狂うのでありました。
 その内竹ざおから足を離した白雲は「お代官様ながなが大変お世話になりました。それではこれにて失礼いたします」と言うと足もとから、もくもくと雲がわき、その雲に乗って、あれよあれよと御家来衆が立ちさわぐうちに雲の中に何処へともなく消えてしまいました。

 


  第二話 風に乗って飛ぶ


 雲に乗って何処へともなく姿をかくした白雲は、流れ流れて岩瀬村大字守屋字日向の仙宝院の寺男として住み込みました。
 仙宝院様に使える様になってからは名を無明と改め忍術はほとんど使わなかったようでありますが、急用の使い走りや、山道を一人で歩くときなどは、足もとに雲起り、飛んでゆく様な速さだったそうです。

 ある時、須賀川の修験道の総監寺である徳善院に急用ができたので手紙をもってゆくことになりました。
 この日は丁度、風がものすごく台風みたいでしたから此処、彼処の家が屋根をむかれたとか、柿の木が根こそぎ倒れたとかで立って歩くことも出きなかったのです。

 無明は、仙宝院の裏の大杉の木の頂上に登り、須賀川の方を向いて何かロの中でとなえ言をしておりました。ところが一段と強
い風がゴーと吹いてきましたら白雲はその風にふわりと体を乗せて須賀川の町へ吹き飛んで行ってしまいました。

 


  第三話 太平洋の海水を呼ぶ


 ある年のお正月、仙宝院様が無明をお供につれて長沼のお殿様へ慣例のお年始にお城へ参りました。
 ところがお殿様はかねて無明の常日頃の寄行をご家来衆から聞いて知っておりましたので、「なにかやってみる様に」と申されました。

 無明は固くお断りいたしましたのですが、お殿様の強いお望みに止むを得ず「それではお殿様の御家来繁盛と、佳きお正月をお祝い申し上げる意味を含めましてはるか彼処の太平洋の荒海をこのお城の庭に呼びよせてご覧に入れましょう」
 「そのようなことが本当に出来るのか」と大層お殿様はお驚かれました。
 「数十里も離れた太平洋の海水を此処まで引くのは誠に容易なことではご座いませんが、お殿様の御威光をお借りいたしますならば出来ないものとも思われません。どうか白扇一本お願いいたします」

と言ってお借りし右手に白扇を持ちお城の縁の端に立ち遠い東山の峯々に向ってロになにやらとなえながら上下に大きく白扇を振りました。しばらく大きく振り続けているうちに峯々の頂上からむくむくと一面に白い雲のようなものが見えてきました。

 耳をすますとかすかに波の音の様なものが聞えてくるではありませんか。しばらくしてよく見ると、白い雲と見えたのは太平洋


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