ふるさと昔話 - 009/056page

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の五郎兵衛どんが薪取りの帰りに馬がガケ下に落ち、ケガをしているのに出合いました。
 「甚造兵衛どん、なんとかならないものだべか」
 「馬もろとも上げてやるべえ」といって谷におり、薪一段つけたままの馬ごと肩にのせ、テクテクとがけを登り、山を下り、成田まで背負ってきました。

 


  第五話 草角力


 今日は梅田の熊野神社のお祭りです。笛やたいこの音も賑やかに、境内には草角力がたちました。
 安積郡の安積山という角カ取りが関をはって強いこと、その強いこと誰れも勝てません。
 いよいよ役角力ということになりましたが三も五もとられ、いよいよ七となりました。六人まで投げ出され七人目に土俵に上るものがありません。

 これを見ていた甚造兵衛は「役角力を全部取る方も取る方だが取られ方も不芸ねえやあ。」といいながら土俵に上りました。
 「甚造兵衛どん、がんばれ」
 「負けるな安積山!」
 両方の声援はものすごく、大層な人気でありました。ニ人はガブリ四つに組みましたが一呼吸して甚造兵衛は安積山を高々とつり上げて土俵の外に投げ出しました。
 「やっぱり甚造兵衛は強い、たいしたもんだ、日本一の力持ちだ」
とみんながはやしたてました。

 この時一人の小柄な男が土俵の上に現われて「甚造兵衛どんは強い強いとみんながいうが、一体全体どの位に強いんだかおれも一回角力を取って見てえ」と言って最后の役角カの七を争うことになりました。
 「いやあー」というかけ声と共にガブリ四つに組みましたが、たちまちのうちに小柄な男は甚造兵衛に高々と頭の上につり上げられてしまいました。
 「さあー、さあー、小人の兄ちゃん、お前さんの好きな方はどちらだい。一里も遠い方へ投げ飛ばしてやるべえよ」といい、さもじまん気に意気ようようと土俵の中央で頭の上の小男に呼びかけました。
 すると頭の上の小男は「景色は満点、甚造兵衛どん、勝負は決まった、お前さんの負けだ。投げられるものなら投げてみな。その前にお前さんの身が土俵の上に倒れておるわよアハハハ」といいました。

 甚造兵衛は高々と両手でもち上げてはみたもののどうにもならず、土俵の真中に立ったまま動けないで立往生となりました。
 そのうち目はつりあがり、玉の様な汗をポタポタとしたたり落ち遂にヘナヘナと腰からくずれてしまいました。
 これを見ていた沢山の村々の人々はアーッと驚きアッケにとられ不思議な勝負に一言も何にも誰れもいいませんでした。

 その後この角力の勝負の話が出ると決って甚造兵衛どんはこう言いました。
 「あの時のあの男の目方(重さ)のあることと言ったらロにも話にも語れねえ。おれの腰が折れそうだったよ。あの男は人間じゃあねえよ。きっとあれは熊野様だったよ」としみじみ語るの


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