ふるさと昔話 - 010/056page

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でありました。

 


  第六話 赤いだてまき


 高村の甚造兵衛は胡麻のハエを得意のいだ天走でけむりにまき袋田の滝で一ぷく。
 滝しぶきの中を岩ツバメがスーイ、スーイと身軽に飛ぶ。あのように自由に飛べたなら人間もいいなあと思いながら数百年後の世の中を空想にふける。部落の人達は、おれをかけ足の速いやつだと言うが、おれだってオギャーとおふくろの腹から生れたときから速いわけでもなかったし、カも強いわけでもなかったんだ。おれも皆んなと同じ、ないないづくしのぼんくらだった。
 世の中はなんでも努力だと思う。部落の人々がそう思わなくとも、おれだけはそう思うんだ。
 山に行って仕事をする時でも、おれはカのつくように、人よりも速く走れるように、工夫に、工夫を積み重ねて来た。学問も位(くらい)もない、おれには自分の体でできるのはこれくらいしかないと思って努カしただけなんだがなあ…………と想っているうちに、コックリ、コックリと居眠りをはじめてしまった。

 何刻(こく)たったろうか、甚造兵衛はようやく目がさめた。
 「これはしまった、ねすぎたぞ」タ日が西の山にしずみかかっていたのには驚いた。
 「こうしちゃあおられねえ、今夜はお月様とのかけっこだ」と一散走り、風のようにとんだ。
 道ばたで遊ぶニワトリも犬もあわてて道をあけてくれた。

 はなわの町に入る。夜だと言うのに、ごたごたした町だと思った。はなわの町の人々は戸ロや道ばたにニ人、三人と集り、なにかヒソヒソと話し合っているのが特に目に入ったが、おれに関係することでもあるめえと目もくれずに走りぬけた。
 何処で馬のかけるヒズメの音が聞える。

 はなわの町を過ぎて山にかかると甚造兵衛は「これは、困った出物、ハレ物ところ嫌わずと言うが、こんどはおれに関係があるようだぞ」
 「おれの出物は馬なみだ。道の近くじゃ通る人がくさかろう、どこかよい場所はないかなあ」と雑木林にかけこむ。「どうせ用をたすならあ月をながめて気分のよい処で」とあたりをさがす甚造兵衛の大きな目に、異様に光景が映った。
 「こいつあ………大変。人助けだ」 「ちょっとおねえさん、はやまっちゃいけねえ。死んだつもりでがまんしてくんね」と後からガッチリ、しっかり抱きとめた。

 月の光でハッと見る。女の顔は本当にきれいだと思う。 「死なせて下さい。どうかとめずに、死なせて下さい。死ななきゃすまない私の身体でございます」「死ななきゃならないお前さんの身体なら、そりゃ本当にもったいない。捨てる命なら私が拾いましょう」「おねえさんの首つりにはいろいろ事情がありそうだから、話を聞くには時間がかかるようだ。ところがねえさん、私しゃ現在しかじか、かくかくお前さんの話を聞きながら、わたしも大事な用をたしゃしょう。ちょっこらくさいが死ぬよりましじゃあ、がまんして下せいよ」とニ、三間離れた草むらの中でやっと高野参りの旅につく(大便をたすこと)
 「わたしは、なにわの花見屋の女郎衆でございます。事情があ


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