ふるさと昔話 2 - 003/066page

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     里守屋の忍術使いの話

  太平洋の大海を呼ぶ

 

 ある年のお正月に、仙宝院は、寺男の忍術使いの無明をつれて、長沼のお城へお年始に参られました。
 お殿さまは無明を呼んで「お正月だによってなにかやってみせよ」と申されました。

 無明はかたくお断りをいたしましたが、お殿様のたってのおのぞみでしたので、
「そんじゃーお殿さまのお家繋盛と、佳きお正月をお祝い申し上げ、太平洋の大海をこのお庭にお引きいたしやしょう」「十数里も遠く離れた太平洋の大海を、このお城の庭にそんなことが本当にできるのか」
「へー、そりゃー大変むずかしいことでこぜいやすが、お殿様のお威光をおかりいたしゃすりゃーできるやもしれやせん どうか白扇一本おかし下さりませ。」

 無明は、おかりした白扇を右手にもって、お城の廊下のはしにたち、遠い遠い東山の山々にむかって口に何か、ムニャームニャーと唱え、白扇を上、下に大きくふり続けました。するとどうでしょう、東山の山々の峯々の頂に、白い雲の様なものものがもくもくと。
 ところが、その白い雲のようなものから、波の音が、ザブーン ザザザザー ザブーン ザザゲゲー

 荒波は、波音高く、荒れ、須賀川、木の崎、志茂村をのみこんで城壁にせまり、石垣にぶちあたる。そのすさまじさは、それは、石垣をいまにもくずさんばかりだった。
 大波は、ますますそのいきおいを増して、とうとうお城の壁をのり越え、お城の庭にザブーン、ザブーンと押しよせたからたまりません。さあー これにはお殿さまも、ご家来衆も、きもをつぶさんばかりにおどろき、これは、天下の一大事と、奥のお部屋へ逃げ込みながら
「無明、無明、助けてくれー、水はもういらない、なんとかしてくれー」
「へーお殿さま、わかりやした、それじゃー水は、もどにもどしゃしょう」と、持ったる白扇をこんどは、前後に、押し返すようにふりつづけますと、太平洋の荒波は、波音もしずまり、東山を越え、次第に太平洋へかえって行きました。


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