玉川村勢要覧 -018/038page
ふるさと伝承便り
引き継がれる民俗・文化・芸能
玉川新人物伝1
念仏踊りが私の生きがい。少女たちの舞いは優美で凛としている。
夏の日差しが山肌にかかる夕刻、 南宿の集会所に7歳から12歳くらい までの少女たちが、なにやら楽しげ に集まってくる。しばらくすると笑 い声も聞こえなくなり、掛け声やお 囃子のなか、真剣な表情で踊りの稽 古に励む愛らしい姿が戸のすきまか ら見て取れる。毎年4月と8月の年 2回、東福寺境内で披露される「念仏 踊り」の稽古が始まったのだ。
21世紀も受け継がれる「南須釜の念 仏踊り」。その裏方で22年あまりを見 守ってきた増子さんは、まさに念仏 踊りの牽引的存在。
「そもそもの始まりは、60年近く踊ら れていなかった念仏踊りを昭和27年、 当時72歳だった大野ケサさんが、12 歳で踊った念仏踊りの記憶をもとに 再興したものです。
私が23歳のときに、南宿の青年団で 保存会をつくり、東福寺の境内で 踊った後、新盆の家を巡る習慣に なっていった。」踊り子となる少女は、それぞれに 綺麗な衣装をあつらえてもらい、本 番を心待ちにする。彼女たちはあど けないけれど、凛としてすがすがし い身の振る舞いから、念仏踊りを踊 る主役としての誇らしさが伝わって くる。そして、2〜3ケ月の練習で踊 りを習得する…。
「無形文化財に指定されてからは、帯 とたすきを購入し、横笛や鐘なども 一緒に保存しています。最近では、地 元の民芸工房で念仏踊りの和紙人形 をつくり、福島空港やこぶしの里セ ンターで販売している。郷土文化を 残そう、多くの人に知ってもらおう という気持ちからか、ありがたいと 思う。子どもたちの中にはすぐ覚え る子どももいれば、何度も繰り返し て、やっと覚える子もいる。(笑)だか ら、みんなで踊るときの楽しさはい いようもない。」念仏踊りを多くの人に知ってもら おうと遠征したり、テレビ放映をし てもらったりと次世代へ伝えていこう とする姿には、感服させられる。
「念仏踊りが、地域に生きてきた人々 の姿を伝える伝承文化として残るよ うに、まだまだかかわっていくつも りだよ。」そう語る、増子さんの自宅居間に は、娘さんとお孫さんが作った念仏 踊りの和紙人形が飾られていた。
増子 忠義
Mashiko Tadayoshi
福島県指定重要無形民俗文化財
「南須釜の念仏踊り」保存会会長