あさかわまちが生んだ偉人-072/093page
し、どうしても夢をあきらめることはできませんでした。
仕事をいくつもかえました。食べる物さえない日が何日も続きました。」
話している稔の表情は、苦しかった日々を思い出しているのでしょうか。時々下を向いたり、手にしているハンカチをグッとにぎりしめたりしています。
「浅川町に帰りたい、と思うこともたびたびでした。でも、私には帰ることはできませんでした。涙ながらに送ってくれた母の姿、成功を信じ励ましてくれた友達に、あわれな姿をみせることが、どうしてもできなかったのです。」
稔は、浅川を離れる時、小さいころ自分の庭のようにしてよく遊んだ城山に登り、一人前になるまではもどらないと、心に誓ったのです。
そう話している稔の目は、遠く城山をみつめているようです。
町民に話をしている稔翁