三春の歴史-016/52page

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「われは坂上田村麻呂じゃ、逆らう者は、残らず退治するぞ。」
と大声を上げながら、群がる敵の中に飛びこんでいった。
田村麻呂の働きは目ざましく、ひとりとしてはむかえる者はいなかった。
それに続く軍勢も、休む間もなく敵を追い立てた。しかし、さすがに土地に慣れた大多鬼丸の手下どもである。にげたかと思うと、思いもかけない物かげから飛び出してきたり、かくれていた一隊が、とつ然雨のように矢をいかけてきたりした。戦場には、土けむりがもうもうと立ちこめ、日の光もうすらいだ。
「進め、進め。」
田村麻呂は、あせにまみれた馬を走らせながら、声を上げ続けた。
敵は、じりじりと山すそに退いていった。あとひと息というときになって、田村麻呂の軍の馬が、ばたばたとたおれ始めた。長い旅のあとの戦いである。どの馬もつかれ切っていたのだ。田村麻呂の馬も先頭を切って走っていたが、小川を飛びこしたひょうしに動けなくなってしまった。
「残念、馬さえあれば。」
と、田村麻呂は歯がみしてくやしがった。
その様子を見ていた大多鬼丸が、くらをたたいて喜んだ。
「今だ。今のうちに一気にふみつぶしてしまえ。」
         ○
馬を失った軍勢は、進むにも進めず、退くこともできず、立ち往生してしまった。田村麻呂は、もうこれまでと、潔く死ぬ覚ごを決めた。そして足をふんばり、両眼をかっと見開いて、敵勢をにらみつけた。
大多鬼丸は、大ぜいの手下に囲まれながら、まっしぐらに田村麻呂の軍に向かってせめてきた。
そのときである。遠くから馬のいななきと、地ひびきをたてたひづめの音が聞こえてきた。おどろいてふり向く田村麻呂の目に、まるで土がふくれ上がったようにかけ寄ってくる馬の群れがうつった。かけつけた馬はちょうど百頭。不思議ことに、せにはくらを付け、まるで乗り手を待っているかのように、田

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