すばらしい先輩たち 会津人のほこり(第1集) -003/197page
りっぱな香箱(こうばこ)をこんなにこわしてしまってー。」
かし子は、チリメンの布(ぬの)をしっかりと胸に抱(だ)いて、養母(ようぼ)を見返します。
「そうではない。私はこの布がほしかったの。そんなりっぱな香箱とは思わなかった。この布だけがきれいだったの」
と言いたいのですが、ことばになりません。あまりにきつくしかられたので、こわくて口がきけず、あやまることもできませんでした。
「まったく、わからずやだよ、九つにもなってー。」
「まあ、なんて強情(ごうじょう)な子なんだろう。」
何も言わないかし子に怒った養母は、
「少しは、ひとりで反省(はんせい)しなさい。」
と、かし子を部屋の柱にしばりつけて、出ていってしまいました。
ふだんでもうす暗い裏長屋(うらながや)に、物売りの声が聞こえて、だんだん夕暮れがせ