すばらしい先輩たち 会津人のほこり(第1集) -064/197page
なくなってしまいました。それに、夫の治療代がかかるだけでなく、番頭に売上金を持ち逃げされ、財産もなくなってしまいました。
岩子は、夫の看病と4人の子供を育てるため、思いきって行商に出かけて働きました。
そのころのことです。こがらしの吹く冬のはじめ、いつものように、「反物(たんもの)は、いらんかね。」と、農家の戸口をまわっていた岩子が、ふと、後(うし)ろをむくと、小屋の前のむしろを少し開け、ジーッとこちらを見ている子供がいるではありませんか。その目はへこみ、腹は少しふくらみ、手足はやせほそっていて、何かうったえるような、物ほしそうな顔をしています。
岩子は、ハッとしてその子のそばに走り寄り、言葉をかけました。
「どうしたの、おとうは、おかあは、」