すばらしい先輩たち 会津人のほこり(第2集) -043/203page
と和尚さんが感心するほど、吉十郎の字はじょうずでした。
吉十郎が、五歳になったある日、九月のなかばに、大雨の降り続いたことがありました。朝起きると、ゆうべからの雨は、まだやみません。
「だんなさま、た、たいへんです。」
家ぞくで朝ごはんを食べているところへ、村の人が、ずぶぬれになって、とびこんできました。
「大川のどてが、くずれそうです。村は、またやられます。」
父は、あわてて食事をやめ、村の人といっしょに、かけ出しました。間もなく、遠く、近く、早鐘(はやがね)の音がひびいて、川があふれたようです。
どてが破れ、大川の水がおし寄せてきました。村で最も大きな吉十郎の家も、たちまち水びたしになってしまいました。村じゅうの人々が、先を争つて逃げ出しました。