すばらしい先輩たち 会津人のほこり(第2集) -099/203page
しかし、そんな中で、豊助を信じていたのは妻のれんでした。れんは何もことばには出しませんが、冷(つめ)たい世間の人の目の中で、豊助と共にじっとがまんしているのでした。豊助には、それがかえってつらく、すまない思いでいっぱいでした。
「すべて私が悪かったのだ。すまない。れんにも、殿様や頼母(たのも)様にも。いや藩の信頼(しんらい)をなくし、農民の期待を裏切ってしまった。この責任は私にある。」だから、死んでおわびをしなければならない、という覚悟(かくご)をきめて、豊助は西郷頼母(さいごうたのも)のやしきをたずねました。事故のようすを報告しないうちは死ねないと思ったのです。
報告を聞き終わった頼母は、
「死ぬことはならぬ。」
ぽつんと言って目をつむりました。春の日ざしがさっと座敷(ざしき)いっぱいにさしこ