すばらしい先輩たち 会津人のほこり(第2集) -170/203page
通り過ぎる町のざわめきの中で、まわりのお寺からは、夕方のおつとめをするかねの音が聞こえてきました。
上野の山の方に、からすがとんでいくのを見あげながら、四郎は、つめたくかじかんだ手をこすりあわせていました。
「つらいか、四郎。」
ふと、うしろから声がかかったので、ふりむくと、嘉納(かのう)が道場の入り口に立って、こちらを見すかしていました。
「いいえ、――はい、つめたいです。」
「つめたくても、それをのりこえるのが、講道館(こうどうかん)の柔道なのだぞ。四郎、自分にかつ、ということばを知っているかね。人間には、いろいろな誘惑(ゆうわく)がある。弱い心は、いつも、ふらふらしている。つらいことをさけて、楽(らく)をしたいという弱い心に、まけてはいけないのだ。そんな自分の心を、自分でおさえ