北会津の昔ばなしと伝説 -072/238page
そうっと、近づいてみると黒い人影(ひとかげ)が一人桶(おけ)をかついで川と田んぼの間を行ったり来たりして、水を汲(く)み入れている様子(ようす)なんだど。
その働きぶりのめざましいこと、とても普通の人とは思えないほどだったんだど。
見張(みは)りの者(もの)が、
「お前さんはだれだい。どうして田んぼに水を入れてくれるんだい。」
と、言っただど。
「おれは、藤兵衛(とうべえ)という者だ。いろいろ人間の世話になったから、そのお礼にやっているんだ。だが、もう今夜でおしまいだ。明日は、雨が降っから。」
と、どこかさ姿をかくしてしまったんだど。
その男の言ったとおり、ほんとに次の日から、雨がザーザー降って、田んぼの稲は、すっかり助かったんだど。
そのころ、お城の大手門(おおてもん)のわきに岡崎(おかざき)というお医者さまの屋敷(やしき)があったんだど。